プロが認める「日本の小宿」 京丹後の「新海荘」

海と生きる

プロが認める「日本の小宿」 京丹後の「新海荘」

 京丹後市網野町の日本海に面した温泉地「夕日ケ浦温泉」。夕日の名所として知られるこの地で、50年以上の歴史を持つ旅館「新海荘」が、旅行業界の有識者が選ぶ2026年の「日本の小宿10選」に選ばれた。

 一見すると昔ながらの旅館。建物や設備で目を引くような新しさや豪華さがあるわけではない。しかし、松葉ガニを使った名物の「蒸しがに鍋」をはじめとする料理は、地元食材の魅力を引き出す。また、心温まる接客も魅力の一つだ。

 客室はわずか10室。小さな宿ならではの「おもてなし」が評価につながった。

「日本の小宿10選」とは?

 「日本の小宿10選」は、株式会社旅行新聞新社が主催する年に一度の「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」の特別賞に位置付けられる。全国の旅行会社の投票によって決まる「100選」は規模の大きな宿が選ばれやすい傾向にあるが、「10選」は客室がおおむね25室以下の小さな宿が対象。選考は旅行関係の団体や記者、編集者で組織する「100選」の審査員の推薦で行われる。

 こうして選ばれた新海荘は、旅行業界のプロに認められた宿といえる。

「地元の食材を楽しんでもらう」

「地元の食材を楽しんでもらう」
「日本の小宿10選」のプレートを持つ松本さん

 「地元の食材を楽しんでもらう」。新海荘の3代目で若旦那の松本将輝さんの思いは、1972年の創業以来、変わることなく受け継がれてきたものだ。創業者の祖父は、もともとは漁師。海が育む地元食材を熟知していた。魚を扱っていた経験を生かし、提供する料理では食材の仕入れから調理までを一貫して手掛けてきた。

 こうした初代からの姿勢は、松本さんも変わらない。自ら漁港へ足を運んで魚を目利きし、最適な食材だけを選び抜く。3代にわたり地元食材と向き合い、活用を図る。

こだわりの松葉ガニ、名物は「蒸しがに鍋」

こだわりの松葉ガニ、名物は「蒸しがに鍋」
提供する松葉ガニの料理

 中でも、初代の頃から松葉ガニ(雄のズワイガニ)へのこだわりは強い。「松葉ガニをおいしく食べてもらいたい」と創業者が考案した「蒸しがに鍋」は、半世紀の歴史を持つ名物料理だ。これを目当てに新海荘を訪れるリピーターは多い。

名物の「蒸しがに鍋」

 その名の通り「煮る」のではなく、秘伝のだしを少量入れた土鍋で「蒸す」。水分を抑えることで甘みやうまみを逃さず、ぎゅっと凝縮させることができるという。でき上がった身はプリっとした弾力のある食感になり、ミソは水っぽくならず濃厚さを保つ。

 松本さんは「カニ本来の味わいを引き出せる」と自信を見せる。これまでに「活ガニ」(調理の直前まで生きたカニ)を使うなどの改良も重ねており、伝統を持ちながらも進化は続く。

 また、もう一つの名物に「蒸し焼きがに」がある。「蒸し焼き」ということが一般的な焼きガニとは異なり、「うまみを閉じ込めつつ火を通す」という考えは「蒸しがに鍋」との共通点だ。

他の地元食材も活用

他の地元食材も活用
桜鯛のしゃぶしゃぶ

 カニシーズンは11月~翌年3月だが、新海荘の魅力はそこだけにとどまらない。他の季節でも、その時ならではの旬の食材を料理に生かす。

エビの食べ比べ

 例えば春には、鬼えびや白えび、甘えびといった近海で水揚げされるエビの食べ比べプランがある。それぞれのエビが持つ個性を楽しめる内容だ。また、桜鯛(さくらだい、春に水揚げされるマダイ)のしゃぶしゃぶプランも好評だ。

 初夏には、とれたてのイカを提供。夏は地元の漁港で水揚げされるクロマグロなどの地魚の中から良いものを選び、会席料理で出す。

 こうした四季折々の味覚は、豊かな自然に抱かれた京丹後市の大きな魅力であり、半世紀にわたる新海荘の歴史を支えてきた。

美しい夕日と「美人の湯」

美しい夕日と「美人の湯」
屋上の展望デッキ
新海荘の玄関

 新海荘は、海に沈む夕日の美しさで知られる「夕日ケ浦海岸」の近くにある。館内の岩風呂とヒノキ風呂は、泉質から「美人の湯」とされる夕日ケ浦温泉。2022年に新設した屋上の展望デッキからは、海岸や夕日が眺められる。

館内の岩風呂

 ただ、1995年に完成した現在の建物は年季が入っており、目を引くような豪華な設備があるわけでもない。にもかかわらず、全国に数多くある宿の中から「10選」に選ばれたことは、新海荘が持つ価値の本質を示している。料理や接客といった「おもてなし」のレベルが、際立っているということだ。

 地元食材の活用、温かな接客―。長年にわたり積み重ねてきたことに派手さはなく、当たり前のようなことだが、いつしかプロの目に留まる水準になっていた。

後継者が磨く「おもてなし」

後継者が磨く「おもてなし」
「日本の小宿10選」の表彰式に出席した松本さん

 高い評価を受ける「おもてなし」は、後継者の松本さんによって磨かれてきた面もある。松本さんは大学卒業後、石川県七尾市の和倉温泉で2年間、宿泊施設で接客などの経験を積んだ。勤務先は「100選」で日本一に輝いたこともある旅館グループ。そこで高いレベルのサービスを学んでから家業に入った。

 創業時から味に定評があった料理は、見た目も良くなるように盛り付けなどを工夫した。さらに業務全体にわたるマニュアルを作り、ばらつきのないサービスが提供できる態勢の構築に取り組んだ。こうした改善が、「おもてなし」の底上げにつながっている。

地域全体の活性化も

 「10選」の選定は、50年以上にわたる新海荘の歴史の中でも大きな出来事だ。松本さんは喜びを見せながらも、現状に満足することなく、「調理技術をさらに高めたい」と次の目標を見据える。また、「飽きられない宿づくり」という方針を持ち、進化する姿勢も大切にする。

 さらに「夕日ケ浦をより多くの人に知ってもらい、地域全体を盛り上げていきたい」と語るなど、地元への思いも強い。一軒の宿にとどまらず、夕日ケ浦全体の活性化にも意欲を見せる。

新海荘ホームページ

Share

カテゴリ一覧に戻る