北近畿への玄関口明智光秀が築いた城下町へ

旅とトレイル

北近畿への玄関口明智光秀が築いた城下町へ

早朝から始まる伊根でのシーカヤックツアーに参加するため、前泊して寄りたい場所があった。福知山だ。
明智光秀が城下町を作った時代から、ここは丹後、丹波、大阪、京都を結ぶ交通の要衝だったという。光秀が信長と共に野望を抱いた地を1度は見ておきたいと思っていた。

泊まる宿には福知山で最近増えているという農泊を選んだ。僕たち夫婦の両親、つまり娘2人の祖父母はいずれも市街に住んでいるので田舎暮らしには縁がない。だからこそ、日本の古き良き“ふるさと”を家族で味わってみたいと思ったのだ。

今回の福知山~伊根1泊2日の旅は家族もすぐに賛成してくれた。

囲炉裏端で味わう打ち立て十割そば

囲炉裏端で味わう打ち立て十割そば

まずは名物の鬼そばを食べるため、鬼伝説で知られる大江町地域を目指す。今回は昔ながらの農家を改装した「鬼ケそば」へ。みんなで囲炉裏を囲み、女将さんが目の前で焼いてくれる地鶏の松葉や川魚を食べながら、蕎麦ができるのを待つ。

普段は切り身の魚に慣れた子どもたちも、串のまま焼きたての鮎にかぶりついている。その形から松葉と呼ばれる鶏の胸骨肉は、身がしっかり締まって旨味が濃い。骨をしがみながら食べるのがまたいい。

ここでは蕎麦粉10割の打ち立てのざる蕎麦が楽しめる。噛むほどに蕎麦の風味が口いっぱいに広がる。一緒に運ばれてきた川エビの天ぷらもカラッと揚がって最高だ。名残りを惜しむかの様に蕎麦湯を出汁の効いたつゆと頂いて締める。縁側の先に広がるのどかな農村風景に癒やされる。お店の人のもてなしも温かく、まるでふるさとに戻ってきた様どこか懐かしい気分になる。

光秀が築いた城下町へ

光秀が築いた城下町へ

旅のスタートとしては最高の昼ごはんを済ませ、いよいよ城下町が残る福知山の中心地へ。まずはJR福知山駅構内にある観光協会の案内所で情報収集。NHKの大河ドラマで明智光秀が取り上げられているだけに、案内所には光秀にまつわるグッズやお土産が所狭しと並んでいる。
また福知山は、肉とスイーツのまちとしてもPRに力を入れているらしく、観光マップの他にスイーツマップと肉を特集した冊子をもらった。

観光案内所で今日一日では消化しきれない程の情報を収集し、まずは福知山城を目指す。
車を停めて、堀に架けられた太鼓橋の手前から城を見上げる。「続日本100名城」にも選ばれているだけあって、なかなか絵になる。天守閣は1986年に市民の寄付などによって再建されたものだが、天守台や本丸の石垣は光秀築城当時の面影を残しいてる。

この石垣は野面積みと呼ばれ、自然石の他、石塔や墓石などの転用石が使われており、独特の味わい深さがある。資料館として整備された天守閣からは、光秀が町割りの基礎を作った城下町が一望でき、城下町の横には雄大な由良川が流れている。ちなみに、当時から度々氾濫を起こしていた由良川の付け替えや護岸工事を最初に行ったのも光秀だ。武将としてだけでなく、都市計画家としての光秀の才能もここでは垣間見ることができる。この場所から、光秀は何を思っていたのか。しばし光秀がいた時代に思いを馳せてみる。

名物栗スイーツと若手ファーマーの挑戦

名物栗スイーツと若手ファーマーの挑戦

城を後にして、妻が絶対に行くと言っていた栗スイーツで有名な「足立音衛門」の本店へ。市の指定文化財にもなっている建物も城下町の風情を演出してくれる。
妻の目的は、本店限定の丹波栗を贅沢に使ったパウンドケーキ「栗のテリーヌ“天”」。大粒で甘みが強く風味豊かな丹波栗は、平安時代から朝廷への献上品として用いられていたブランド栗だ。

丹波栗がぎっしり詰まったパウンドケーキはずっしり重い。栗スイーツがずらりと並ぶ様子に我慢ができず、すぐに食べられる栗の焼き菓子をいくつか買って店の軒先で食べることにした。

娘が歩こう!と言うのでみんなで堤防へ。堤防からは福知山城、そして光秀が護岸工事の一環として作ったとされる明智藪が見える。堤防からぐるりと見渡すと、大江山や夜久野の山並みに抱かれているようで、ここが盆地なのだと分かる。西の空がブルーからオレンジへグラデーションを描き美しい。いつの間にか空も高くなって秋の気配を感じる。

日がまだ明るいうちにもうひとつ、妻が福知山に来るなら立ち寄りたかったエコファーマー認定も受けている「小林ふぁーむ」へ足を伸ばす。今年の夏に収穫したトマトで作ったジュースを買い、その場で飲んでみる。売り切れ御免の看板商品である絶品「とまとのじゅーす」は、ふくよかな甘みと後から追いかけてくる優しい酸味が絶妙でフルーツジュースの甘ったるさが苦手な僕もあっという間に瓶を空にしてしまった。

さっき足立音衛門でも丹波栗を堪能してきたが、福知山は丹波栗の名産地でもある。そして近年、まだまだ希少なこの丹波栗を守ろうと、IターンやUターンで栗農園をはじめる若者が増えているという。気になったので、秦栗園へも足を運んでみた。新規就農した秦さんの農園は現在1ヘクタール。8種類275本の栗の木が植えられ、草生栽培で除草剤は使わず化学肥料に頼らない農法で育てられている。秦さんの「丹波くり」は京都府の品評会で「知事賞」を受賞しており、また、福知山の「エエもん」にも認定されるなど高い評価を受けている。栗の木の下草の緑が、自然のコントラストと調和してここにいるだけで健康になりそうな気分になった。

肉のまちを堪能する

肉のまちを堪能する

宿にチェックインする前に、早めの夕食も城下町の近くで済ませることに決めていた。なぜならここは肉のまちでもあるからだ。さっき観光案内所でもらった肉を特集した冊子で吟味した結果、「丹の吉」に行くことにした。焼き肉はもちろんのこと、フレンチを学んでいたシェフのオリジナル料理もあるらしく、選択肢が多い方が子どもたちも喜びそうだと思ったからだ。お店では店主が明るく迎えてくれた。

まずは注文を受けてから手切りするという厚切りタン塩を頼む。柔らかさの中に程よい弾力があり、噛むほどに肉の旨味が溢れてくる。「ちょうどいいのが入ったから」、とお店の隠れ人気メニューであるイノシシ肉も登場した。これは一度軽く炙った後、醤油に付けて2度焼きするのがいいらしい。甘い脂身に香ばしい醤油の風味が相まって、ファンが多いのも頷けるクセになる味だ。ジビエ特有の獣臭さなどもなく、子どもたちも嬉しそうに食べている。付け合せに頼んだシャキシャキの旬野菜たっぷりのバーニャカウダがどのお肉にもよく合う。
お店の人たちや地元の常連客さんたちも交えた楽しい夕食になった。

やきにくの丹の吉

やきにくの丹の吉

宿への道すがら、もう一度福知山城の前を通ってみた。昼間とは違い暗闇にライトアップされ浮かび上がる天守閣は幻想的かつ幽玄的だ。
10月には夜の福知山を楽しむ光のイベントが予定されているらしく、毎晩福知山城ではイルミネーションやプロジェクションマッピングが開催されるそうだ。福知山はまだまだ見どころが多そうなのでイベントの頃に再訪してみたくなった。

田舎暮らし体験と温かなおもてなし

田舎暮らし体験と温かなおもてなし

宿は農家での田舎暮らしが体験できるという「ふるま家」に決めていた。到着すると宿主の沢田さん家族が温かく迎えてくれた。さやかさんの旦那様はフランス人!とても気さくで優しい人柄に最初は緊張していた子どもたちもすぐに打ち解けた。

通された部屋で荷物も解かずに、ごろんと大の字で寝転がってみる。今日一日の心地よい疲れが体に広がっていく。4人家族が十分入れるお風呂で疲れを癒した。久しぶりに家族で入るお風呂が新鮮だった。掘りごたつがあるラウンジで、オセロやゲームをしてゆっくりと過ごす。なんだか友達の家に遊びに来たみたいで、のんびりと夜の時間を楽しんだ。

朝、部屋の大きな窓から差し込む朝日で目が覚めた。昨日は既に暗くなっていてよく見えなかったけど、目の前にはのどかな田園風景が広がっている。窓を開けるとツンと冷えた朝の澄んだ空気が山の匂いと一緒に入ってきた。ラウンジの方からは朝ごはんのいい匂いがしてきた。
ラウンジでは既に起きていた子どもたちがロッキングチェアの取り合いをしている。

ふるま家では、食事も絶対に外せない。無農薬・無化学肥料で育てた野菜や自家精米したお米、山菜の他、地元食材を使った家庭料理でもてなしてくれる。
和朝食には、野菜の小鉢料理や近所で手に入る採れたての卵を使った料理などがお膳いっぱいに並ぶ。一皿ひとさらが素材の良さを引き出すために丁寧に調理されており、しみじみ味わい深く、朝から箸が進む。新米だというご飯を思わずおかわりしてしまった。

外国人のお客さんも多いらしく、どうしても朝から塩辛いものが食べられない人のために、トーストやフルーツ、ヨーグルトの朝食も充実している。採れたて卵で作ったふわふわのフレンチトーストやパンケーキが並ぶ豪華な朝食に子どもたちも大喜び。

たった1泊しただけのに、すっかりくつろいでのんびりできたせいか、もう何日もここに居たように、宿を発つときは寂しい気分になった。でもとてもすがすがしい気分だ。

駆け足の福知山旅だったけど、たくさんのいい出会いといい思い出が出来た。

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