海と大地を感じる伊根の旅

旅とトレイル

海と大地を感じる伊根の旅

水に浮かぶように並ぶ家々が水面にもゆらゆらと映る。まるでどこか遠い国の風景を見るような。この舟屋群の風景で、伊根町は一躍人気観光地の仲間入りを果たした。
舟屋だけにとどまらない、自然豊かな伊根の魅力に触れてもらおうと、伊根では体験型観光に力を入れ、地域の良さを楽しむためのアクティビティも充実している。
今回はシーカヤックで丹後の美しい海を間近に感じ、E–BIKEで農家をめぐる「農家ライドツアー」を楽しむ計画を立てた。

地球を体感するシーカヤックに挑戦

朝から始まるシーカヤック体験に参加するため、受付場所を兼ねた観光案内所がある舟屋群の集落へ。時間より少し早めに着いたので、舟屋の町並みを海沿いに少し散策する。海面が近くて磯の香りが強い。水面に朝日がキラキラと光り、朝の静寂の中に浮かぶ舟屋群がなんとも絵になる。

受付を済ませ車で本庄浜海水浴場まで移動する。本庄浜は日本最古の浦島太郎伝説が残る場所で、狭い湾が複雑に入り組んだリアス式海岸ならではのダイナミックな風景を体感できるという。
待ち合わせ場所で待ってくれていたインストラクターの増田さんの指示に従って、まずはウェアに着替え、準備体操をする。
今日は波も穏やかで海水も澄んでいるらしく、絶好のシーカヤック日和のようだ。

漕艇のレクチャーを受けたあと、それぞれのカヤックに乗り込む。
さあ、いよいよ出艇。じゃぶじゃぶと海へ入っていく。秋の海は夏の暑さを蓄えているので思ったより温かい。娘を先に前に乗せ、後ろに乗り込む。体制を整えてパドルを水面に差し込みぐいっと後ろへ漕ぎ出すと思ったよりすーっと前に進んだ。インストラクターさんに付いて、ゆっくりと防波堤の先を目指す。

広く開けた場所でまずはカヤックに慣れていく。エメラルドグリーンに染まる海水は透明度が高く、カヤックの上からでも海の底が見える。
『はこめがね』を借りた娘は、海の中で泳ぐ魚たちを夢中で追いかけている。カヤック体験が目的なのも忘れ大興奮だ。

伊根の青の洞窟へ

参加者が慣れてきた頃合いを見て、インストラクターの先導でいよいよ洞窟へ。
今日は「伊根の青の洞窟」と呼ばれる小洞窟にも入れそうだという。

さっきまでの視界の広い場所とは違い、反り立つ断崖に近づき、水面と同じ高さから見上げると思っていた以上に迫力がある。
パドルの長さや向きを測りながらゆっくりと洞窟に入って行く。洞窟の真ん中くらいまで入ったところで光の差す方へ方向転換すると、海底の白砂に反射した太陽の光が海水の青色がさらに濃くなっている。自然が作り出す美しさに思わず息をのむ。

洞窟を出ると優しい午前の太陽の光と柔らかな風に迎えられ、現実の世界に戻ってきた様でホッとする。
浦島太郎が見た竜宮城はこの青の洞窟のことだったんじゃないか。そんな想像をしてしまうような、幻想的な体験だった。

カヤックからの目線の高さに慣れてくると、すっかり自分が海と一体となったような、雄大な自然に包まれている様な不思議な気持ちなってくる。街にいるときよりも、自分が地球の一部に存在しているのを感じる。

約1時間のシーカヤック体験はあっという間だった。ゆっくりとパドルを操りながら本庄浜まで戻り、カヤックを浜に引き上げ艇庫に戻す。

ウェットスーツを脱ぎ、少しゆっくりしていると、農家ライドツアーを企画している京都海道の方がE-Bikeを届けに来てくれた。ここからいくつかの農家を巡りながら、昼食の場所となっている最終目的地を目指す。

E-Bikeで秋の農家ライドツアー

サイクリングロードとして勧めてくれた海辺の道沿いにはコスモスが満開で、海の青とのコントラストが美しい。自転車を停めて秋の海の風景を目に焼き付ける。
農家さんの畑に着くまでにインストラクターの増田さんが伊根の歴史や、面白いところなど色々と話してくれて飽きも来なくずっと楽しかった。

最初に訪ねたのは、京都市から移住してこの伊根で農家を始めたという川村さんが営む「農園ねずみのすもう」さん。京野菜をメインに栽培、販売をされていてビーツの加工品も販売されているそうだ。今は水菜や伏見とうがらしが収穫の最盛期を迎えている。

続いては「かわうそ農場」へ。ここは無農薬で育てるトマトが有名だ。残念ながらトマトの収穫時期は終わっていたけれど、農園で採れた完熟トマトを使ったアイスの試作品を子どもたちに、と用意してくれた。トマト独特のコクのある甘みと程よい酸味がクリーミーなアイスクリームととても良く合っている。

さらには、今しか出来ないからと、餅米の稲刈りにまで誘ってくれた。子どもたちは稲が育つ田んぼに入ることさえ初めてだ。機械ではなく、鎌で稲を刈る。子どもたちも教えてもらった通りに鎌を操る。しっかりと実った稲穂の重みがどっしりと伝わる。お餅は皆大好きで、何気なく普段食べているお餅がどんな風に育っているのか、思いがけず体験を通して知ることができた。
また、この農園を営む渡邊さんご夫婦の人柄も良くて、すっかりファンになってしまった。

最後に立ち寄ったのは藤原さんが営む「やさいや 土の子」さん。ここは自然のサイクルや多様性を尊重し、農薬だけでなく肥料も使わず最低限の雑草刈りだけで、野菜が自らの力で成長していける環境を作っている。それだけにスーパーで並ぶ野菜よりは不揃いだけど、その分滋味に富んで味が濃い。食物連鎖を勝ち抜いてきた、野菜の力強い味がする。そんなふうに育った野菜だから体にもいいに決まっている。そう確信させる野菜だ。
ヤギにも触れ合えて子供達にはとても刺激的な場所になった。

お昼ごはんは地場の食材を堪能する

朝からずっと体を動かしていたせいで、いよいよお腹が空いてきた。お昼ごはんを食べるため湯之山集落にある「イネノソラGOHAN」さんを目指す。
古民家をリノベーションしたというご飯屋さんで、アットホームな雰囲気に疲れもゆっくりほぐれていく。

地元伊根を中心に、丹後の旬の野菜をたっぷり使った旬菜プレートランチが楽しめる。さっき訪ねた「農園ねずみのすもう」さんの水菜も使っているとのこと。
サラダから煮物、揚げ物まで。風味、食感、栄養など、野菜それぞれの良さを引き出すために工夫されたお料理がプレートいっぱいに並ぶ。ひとつひとつ丁寧に調理された料理は野菜の美味しさを再発見できる上に食べごたえがある。

ねずみのすもうさんの水菜は水々しくてシャキシャキで、苦味がないので子どもたちももりもり食べている。やっぱり作っているところを見たばかりの野菜が食べられるというは格別だ。さらに、ツヤツヤのお米も自家栽培したものだという。噛むほどに甘みが広がる。日本人で良かったと思う瞬間だ。
自家製マーマレードで焼いたチキンはほろ苦く、なんとも言えない甘くて優しい味だ。妻は特に『ニンジン菜とニンジンの皮のかき揚げ』に感動していた。これは我が家の食卓のメニューが1つ増えたに違いない。

ここでは、その日仕入れた丹後の魚や平飼い鶏でスープを取った中華そばも名物だというので皆でシェアする。透き通ったスープは雑味がなく体に染み渡っていく。

食後は少し店の外で農村風景を眺めのんびり過ごす。秋の爽やかな風がほどよい疲労感をまとった体を心地よく撫でていく。
娘が通りすがりのお婆さんに自分から『こんにちは』と言っている。優しい笑顔で『こんにちは』と返してもらっている。それほどに安心しきっているのだ。

次の場所にはどんな出会いや出来事が待っているのだろう。
しっかり充電したら、観光案内所がある舟屋群集落まで最後のひと漕ぎだ。

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