丹後ちりめんの町で古き良き時代へタイムトリップ

旅とトレイル

丹後ちりめんの町で古き良き時代へタイムトリップ

高級着物の代名詞「丹後ちりめん」の産地として知られる与謝野町は、京都と丹後を結ぶ物流拠点として栄えたちりめん街道を中心に、今も古い町並みが残り、機織りの音が聞こえる風情のある町だ。

これまで、数々の海の京都エリアを旅して来たが、まだ訪れていないのが与謝野町だ。

実は与謝野町では、毎年3月になるとちりめん街道内の旧家や施設に古い立派なお雛様が展示され、春の訪れと桃の節句を祝う「ちりめん街道ひなめぐり」が開催されており、せっかくならお雛様の時期に訪れたいと思っていた。

残念ながら今年はコロナの影響でイベント自体は中止になってしまったが、いくつかの旧家などでは雛人形の展示があると聞き、娘たちと与謝野旅を決行することにした。

丹後ちりめんの高級着物で着付け体験

最近は着物の着付け体験も気軽にできるようになったが、ここ与謝野町のように、高級着物である正絹を用いた丹後ちりめんの着物で着付け体験ができるというのは珍しい。さすが絹織物の町だ。
普段は大人向けのサービスだが、相談すると子ども用の着物も用意してもらえるとのこと。与謝野町観光協会から紹介を受け『コジュウササキ』へ。
ここは大正初期から丹後ちりめんの製造を担ってきた老舗のひとつ。現在もオリジナルシルクニットの生産から和洋装のニット製品の製造までを一貫して行なっている。

長女は色鮮やかな青の着物、次女は赤や淡いブルー、黄色が入ったカラフルな着物を着せてもらった。現代の自分たちが見ても古さを感じさせない大胆な色使いに目を奪われる。
彼女たちが並んで歩いていると目を引くらしく、町ですれ違う人たちに「かわいいね」と、何度も声をかけてもらって嬉しそうだ。
普段はパンツスタイルで走り回っている彼女たちも、ちょっとおしとやかになるから面白い。

コウジュササキの詳細はコチラ

コウジュササキの詳細はコチラ

繭から糸、糸から布へ。手織り紬の工房を訪ねる

実際に糸を紡ぐ様子や機を織る様子を見たいなら是非、とコジュウササキさんで勧めて頂いた11代目佐橘登喜蔵氏の工房『登喜蔵』を訪ねる。

ここでは草木染めの絹糸を使い、手織りの紬を作っている。糸にしてからではなく、繭の状態で染めを入れ、染めた繭から糸を紡ぐ。染料は与謝野に自生する植物を組み合わせて作っているので、ここにしかない色が生まれる。
佐橘さんが使う機織り機は、今ではもう手に入らなくなったもの。今ある複数の織り機の部品を組み合わせ、修繕しながら大切に使い続けているという。職人の繊細な手仕事に応え、使い込まれてきた機械や道具は、滑らかに摩耗し、艶を帯びた木肌からその年月の長さが伺える。

繭や機織り機さえ初めて見る子ども達に、佐橘さんが自ら丁寧に説明をしてくれる。

「職人気質」と聞けばどこか気難しく頑固な人のイメージがあるが、佐橘さんはとても気さくな方で、子どもたちにも大事な道具や機械に直接触れて、感じることを快く勧めてくれた。
更には実際の機織りの様子も披露してくれ、細い細い糸が一本一本織り上げられ、滑らかな1枚の布になっていく様子に子どもたちも夢中になっていた。

バタンバタンとリズムカルに鳴る機織り機の音もまた心地よい。
一見楽しそうな機織りの作業だが、ここに至るまでに千本以上の縦糸をご夫婦二人掛かりで数日かけて機械にセットしていくという。
「気が遠くなるような大変な作業だけど、仕上がった作品を身につけて喜んでくれている人を見ると、嬉しくてそんなことは忘れてしまうんです。」
と横で見守る奥様が優しい笑顔で話してくれた。

織部 佐橘 登喜蔵の詳細はコチラ

織部 佐橘 登喜蔵の詳細はコチラ

往時の繁栄の象徴、旧尾藤家でタイムスリップ?!

往時の繁栄の象徴、旧尾藤家でタイムスリップ?!

工房を後にして、江戸時代から残る丹後ちりめんの商家旧尾藤家住宅へ。立派な中庭を囲むように居間や台所、座敷などが配されいる。江戸末期に建築された建物は、明治、大正にかけて蔵や座敷などが増改築され、さらに昭和3年には当時では珍しい洋館を増築しており、一家の繁栄の様子がうかがえる。

洋館の窓からは往時の面影を残す町並みが見える。そんな窓辺に立つ着物姿の子どもたちを見ていると、まるでタイムスリップしたような錯覚に陥る。
ここではお雛様の展示も見学。約130年前の雛人形をはじめ、尾藤家に代々伝わる雛人形が飾られていた。
※旧尾藤系住宅での雛人形展示期間は2021年4月6日(火)まで

旧加悦町役場庁舎で組紐体験

旧加悦町役場庁舎で組紐体験

最後は与謝野町観光協会がある旧加悦町役場庁舎へ。1929年に役場庁舎として完成したこの建物は、2019年から大改修が進められ、昨年3月に竣工し、現在は観光案内所となり、展示や各種体験スペースとしても開放されている。
登喜蔵さんの機織りにすっかり感化された娘たちは、手織りのコースターづくりにも興味を示していたが、今日は組み紐でのミサンガ作りに挑戦。用意された色とりどりの絹糸の中から好きな色の糸を4色選び、専用の組台を使って糸が巻かれた組み玉をくるくる回していくと、30分ほどでオリジナルのミサンガが出来上がる。色を選ぶところから編み上げるまで、全ての工程を体験できるので、出来上がったときには達成感がある。

娘たちも自分が編み上げたミサンガを早速腕に付けて満足気だ。
今日の思い出にぴったりのいいお土産ができた。

ここには、「ちりめん街道を守り育てる会」が所有する雛人形が一同に飾られていて迫力がある。どれもまちの旧家などで大切に保管されてきたもので、各家で少しずつ表情の違う人形を見比べてみるもの楽しい。当時の子どもたちも今の子ども達と同じように、飾ってもらったお雛様を嬉しそうに眺めていたのかな、など想像を膨らませてみる。今も昔も変わらない、伝統行事の良さがある。
※与謝野町観光協会(旧加悦町役場庁舎)での雛人形展示期間は2021年3月23日(火)まで

シルク100%!組みひものミサンガづくり体験はコチラ

シルク100%!組みひものミサンガづくり体験はコチラ

一日慣れない着物で過ごした子ども達だが、軽くて暖かい正絹の着物は思っていたより快適だったようだ。すっかり着物が好きになったようで、また着たいと言っている。そんな彼女たちを見て、また、着物が当たり前だった時代を大切にする、このまちの人たちと触れ、自分たちももっと気軽に着物を着てみたくなってきた。

着物を脱いでいつもの服に着替えると、遠い世界から無事に戻って来ましたと言わんばかりに、ちょっとほっとしたような、娘たちの笑顔があった。

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