京都の海、里山の名店 中丹2店に迫る

まちと文化

京都の海、里山の名店 中丹2店に迫る

 京都府北部地域で名の知れた飲食店に迫るシリーズ。今回は豊かな海と川、そして里山に囲まれた中丹地域(舞鶴市、綾部市、福知山市)の店を紹介する。港町の舞鶴市内で営業するカウンター割烹の「京都舞鶴ARIYOSHI」の魅力と、鴨すきが名物で知られる福知山市の老舗「鳥名子(とりなご)」の歴史と新たな展開に迫った。

舞鶴が誇るカウンター割烹「ARIYOSHI」

舞鶴が誇るカウンター割烹「ARIYOSHI」
ARIYOSHIのカウンター席

 東舞鶴の商業ビル2階で営業する「京都舞鶴ARIYOSHI」(舞鶴市桃山町)は、地元舞鶴を始め近隣市町、そして評判を耳にした遠方からの客もやってくる。

 カウンター9席、個室6席の計15席の割烹で、客は日本料理一筋40年の有吉功光さんが調理するバリエーション豊かな日本料理に酔いしれる。有吉さんの料理を楽しむ客、結婚記念日や誕生日などの〝ハレの日〟に利用する客も少なくない。また、地元の事業者がこぞってビジネスシーンでも活用する自慢の店だ。

 完全予約制で食事は希望の時間に一斉スタート。多彩な日本料理の食材は全国から厳選した旬のものを使用。一斉スタートのカウンター割烹は現在主流となっているが、10年前の開業時は京都・祇園に数軒あっただけ。もちろん舞鶴にはなかった。

大阪や飛騨高山の高級料理旅館などで修業を積んだ有吉さん

 店主の有吉さんは舞鶴生まれ。中学卒業後、料理の世界に飛び込んだ。初めての修業の地は、高級住宅地が広がる大阪の大きな料理旅館だった。

 そこで10年修業をしたのち、カウンター割烹や江戸前の寿司店などに勤め、バブル期には高級食材をふんだんに扱い、寝る間も惜しんでがむしゃらに働いた。

「最高の料理とおもてなしを」一斉スタート導入

「最高の料理とおもてなしを」一斉スタート導入
楽しんでもらえるように調理する手元が見えるようにするなど工夫を凝らす

 31歳のとき、岐阜県の飛騨高山にある高級料理旅館の総料理長に就任した。こじんまりとした宿でこだわり抜いた食事が楽しめる先駆けの店だった。今でもその時の顧客が舞鶴の店に訪れるという。

 古里に戻り、独立開業したのは2014年で、妻の友理さんと二人三脚で営業を始めた。「最高の料理とおもてなしを」との思いから、同じ料金のおまかせコースと一斉スタートのスタイルを採用した。

 料理を目でも楽しんでもらえるように手元が見えるように調理し一品一品、丁寧に説明して提供する。このサービスが受けて顧客が記念日などで利用する〝特別な店〟に。食通が通うほか、評判が評判を呼んで接待で訪れた客も全国から顧客を連れてくるようになった。

人気の蒸寿司

 コースは5パターン(1万1千円から、2万2千円以上まで)を用意。名物は期間限定のコッペ蟹(松葉蟹のメス)土佐酢ジュレがけや、熱々のシャリに魚介の漬けをのせた蒸寿司、旬の食材を使った土鍋ご飯など。変わったところではイタリア・ベルケル社のスライサーで極薄にスライスされる生ハムも、人気の一品だ。

 有吉さんは「寿司や天ぷら、串揚げなどなんでもできるのが関西の料理人の強み。ただ、時折は寿司店などの専門店に出向いている。一本に絞った店は思いもつかないようなことをやっている。そこから学んで自分の料理に取り入れていきたい」と余念がない。

それぞれの顧客が楽しむ空間づくりを追求

それぞれの顧客が楽しむ空間づくりを追求
定番である〆の土鍋ご飯。食材はその日のお楽しみ

 「この店に来られるお客様は純粋に食事を楽しみに来られたり、記念日を祝う日であったりなど、それぞれ意味があって来店されている」と有吉さん。店の将来については「料理がおいしいのは当たり前。それぞれのお客様が楽しんで頂ける空間づくりをより深化させ、舞鶴にこういう店があって良かったと思われ続けるように努めていきたい」と語ってくれた。

京都舞鶴ARIYOSHIホームページ

福知山を〝鴨すきのまち〟に 「鳥名子」

福知山を〝鴨すきのまち〟に 「鳥名子」
福知山市中ノにある「鳥名子」の本店

 戦国武将、明智光秀を祭る御霊神社そばにある「鳥名子」(福知山市中ノ)は、鳥料理の居酒屋として1976年に創業。45年前、現在の場所に移り、約半世紀にわたって名物の鳥料理を提供してきた。

名物の鍋料理「鴨すき」

 鳥名子の名物となっている鍋料理「鴨すき」は、その頃から提供しているメニューだ。鳥料理専門の店は珍しい存在だったが、鴨すきはとりわけ人気の一品だった。そしていつの間にか、鳥名子といえば「鴨すき」と言われるようになったという。

 鴨肉、鴨団子をたっぷりのネギと合わせて食べるシンプルな鴨すき鍋は地元のみならず、市外の客からも評判となった。本店では、鴨すき以外にも丹波や但馬地方の新鮮な鶏肉を使った炙り鳥の刺し身や焼き鳥、唐揚げなどを提供。アットホームな雰囲気の中で、こだわりの鳥料理が満喫できる。

市内で新たに2店

市内で新たに2店
福知山市下柳町にオープンしたカフェバー・レストラン「柳町」

 そんな鳥名子から派生した2つの飲食店が福知山市内に誕生した。2015年、福知山市下柳町にカフェバー・レストラン「柳町」がオープン。2020年には柳町の向かいにある旧片岡家住宅を改装した「とりなご久兵衛」の展開を始めた。

 両店が営業する下柳町周辺は、由良川沿いに敷かれた京街道(山陰街道)の宿場町として栄えたエリア。カフェバー・レストランの柳町は、そんな城下町風情が色濃く残る場所に建っていた明治期の町家を改装した。

食材や酒、器も厳選した「柳町」

食材や酒、器も厳選した「柳町」
カフェバーを備えた柳町の店内

 100年を超える建物の歴史とカフェバーを備えた現代的な空間が融合した柳町。食材や酒、そして器にまでこだわり、直接、生産者に会って厳選したものを使用する。

 柳町を手掛けた二代目の足立悠磨さんは「より地元の食材を選び、作り手側の思いも汲みながら、お客様に自信を持って出せるメニューをそろえました」と話す。

人気を集めるランチ限定メニューの「京地どりの親子丼」

 鴨すきのほか、地鶏を使ったランチ限定の親子丼も人気のメニューだ。京都府産のブランド畜産物「京地どり」の鶏肉を使用。ご飯は隣町の綾部市の農家が育てている有機栽培米を使う。店長の大槻直城さんは「店で扱っているもの全てをお客様に説明できるのがこだわりの一つです」と話す。

 昼間は観光客でにぎわい、カフェを併設しているのでカップルらがカジュアルに利用できるのも店の売りだ。最近では台湾などからのインバウンドも増えてきたという。

趣きのある個室空間「とりなご久兵衛」

趣きのある個室空間「とりなご久兵衛」
「とりなご久兵衛」で一番人気の個室

 一方、柳町の向かいに2020年、オープンした「とりなご久兵衛」は、福知山の商業の礎を築いた呉服商、片岡久兵衛の本宅を修復したもので、大小15の個室を備えた趣きのある店だ。

 明治、大正、昭和の各時代に建てられた木造の母屋や離れなど、3棟からなる文化的価値の高い建物を保存・活用。最大の特徴は落ち着いた個室空間で、居間や大広間などの各部屋は当時のしつらえをできるだけ残したまま客室に仕上げた。

「鴨のロース丼」は昼の名物メニューだ

 久兵衛では、本店のメニューを踏襲しつつ鴨料理を中心に独自の料理も考案。人気の「鴨のロース丼」は昼限定のメニューで、鴨のギョーザやコロッケ、ハンバーグも久兵衛ならではの一品だ。

「各店でシーンに合わせた鴨すきを」

「各店でシーンに合わせた鴨すきを」
とりなご久兵衛と柳町が営業する通り

 全て個室のため接待などビジネスシーンでの利用も多く、純米大吟醸などの高級な酒も充実している。その一方で、子どもを連れた親が気兼ねなく食事を楽しめるように、広々とした座敷の個室も備えた。

 久兵衛は、創業者の足立直美さんの意思を引き継いだ店。まるで高級料亭のような雰囲気だが、本店のような温かい空間で入りやすく、リーズナブルな価格設定もうれしい。

 久兵衛の瀬野匠店長は、「福知山を〝鴨すきのまち〟にする。本店、柳町、久兵衛の3店舗で波及させたい」と話す。柳町の大槻店長は「シーンに合わせた鴨すきをそれぞれの店で味わい、楽しんでほしい。福知山に何度も足を運んで頂ければ」と話している。

鳥名子ホームページ

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