住んでよし・訪れてよしの観光地へ   宮津・伊根オーバーツーリズム対策に迫る

DMOコラム

住んでよし・訪れてよしの観光地へ   宮津・伊根オーバーツーリズム対策に迫る

 日本の観光地ではコロナ禍が明け、円安も相まってインバウンド(訪日外国人)が急増し、かつてないほどのにぎわいを見せている。この一方で、キャパシティー以上の人が押し寄せて観光地に様々な弊害をもたらす「オーバーツーリズム」の問題が全国各地で浮き彫りになり、対策に追われている。

 海の京都エリアでも例外ではなく、宮津市と伊根町を結ぶ路線バスが観光客で混雑し、観光客の利便性や住民生活にも影響が出始めている。このため2024年から、海路で観光客を運ぶ「遊覧船」を導入。2025年も続けて運航することを検討しており、「観光特急バス」などの新たな対策も打つ構えだ。目指すのは〝観光客と住民が安心して歩ける観光地〟。現状と取り組みに迫った。

訪日外国人が急増 過去最高に

訪日外国人が急増 過去最高に
天橋立の智恩寺周辺を観光する外国人ツアー客

 日本三景を有する宮津市と、日本のベネチアと呼ばれる伊根町は、国内外の旅行者を海の京都に誘う府北部を代表する観光地だ。

 雄大な日本海へと通じる穏やかな湾に浮かぶ天橋立と舟屋群。両地域とも海にまつわる日本古来の絶景が売りで、外国人を中心に観光客が急増している。

 年間300万人近くの観光客が訪れる宮津市の2023年宿泊客数は約64万人。このうち外国人が約5万7千人で、これはコロナ禍前を上回る過去最高の人数。天橋立や周辺の展望施設、土産店には台湾、中国などからのツアー客の姿が目立つ。

観光客で混雑する伊根浦公園

 一方、伊根町でも2024年度は観光客が40万人を突破する見通し。伊根町などが舞台になったNHKドラマ「ええにょぼ」が放映された1993年度の38万5千人を超え、約30年ぶりに過去最高値を更新する。舟屋が建ち並ぶ伊根浦の道路や観光案内所などは外国人観光客らでにぎわっている。

路線バス「伊根線」の混雑が問題に

路線バス「伊根線」の混雑が問題に
天橋立駅前のバス停で伊根行きのバスを待つ観光客

 観光客の急増で問題となっているのは、宮津市と伊根町を結ぶ民間バス路線の「伊根線」だ。伊根町には鉄道が走っておらず、バスの車内は一昨年の秋ごろから日本の若者に加えて個人旅行を楽しむ外国人観光客らで混雑している。

 京都丹後鉄道天橋立駅前や伊根浦のバス停留所には大きな荷物を抱えた観光客が長蛇の列をつくり、バスに乗り切れない観光客が出てきた。また、伊根線は、地元の大きな病院となる府立医科大附属北部医療センターなどを経由し、住民の利用も多い。普段、通院する、高齢者らがバスに乗れないこともあるなど地域住民の生活にも支障が出てきた。

海路での観光の足 直通の遊覧船を導入

海路での観光の足 直通の遊覧船を導入
観光客の移動手段を分散させる目的で導入した直通の遊覧船

 そこで昨年7月、一般社団法人京都府北部地域連携都市圏振興社(海の京都DMO)は、観光客の移動手段を分散させる目的で、宮津―伊根間を結ぶ遊覧船を試験導入した。150人が乗れる天橋立航路の新造船などを活用。海路での観光の〝足〟を用意した。

 遊覧船は宮津桟橋(宮津市浜町)から天橋立桟橋(同市文珠)を経由し、伊根町に向かう直行の船便で、7~9月の土・日曜、祝日限定で運航。所要時間は約1時間で、1日2往復走らせた。

 更に10~12月は海が荒れやすいため船便に代わって予約型のバスを運行。伊根湾めぐり遊覧船の乗車券、傘松公園ケーブルカー・リフト往復チケット、天橋立観光船の片道乗車券を付けて販売した。

 同DMOによると、遊覧船の運航期間は路線バスに観光客が乗り切れない〝積み残し〟がみられず、一定の成果が見られた。月を追うごとに船便の利用者が増え、乗船者の中には船で移動することに魅力を感じる人が多く「お金を払ってでも乗りたい」といった声も寄せられた。

 一方で、予約バスは既に鉄道会社などが発行するフリーパスを購入している観光客が多く、価格などもネックとなって利用が振るわなかった。

「観光特急バス」も検討

「観光特急バス」も検討
傘松公園のケーブルカー乗り場。観光特急バスでスムーズにたどり着けるようにする

 こうした結果を踏まえ、2025年度も遊覧船の運航を継続したい考えで、更に京都市内などで運行されている「特急バス」導入も検討している。観光客がすぐに乗れてスムーズに目的地へ行ける観光特化型のバスで、停留所は天橋立駅のほか傘松公園や元伊勢籠神社、伊根の遊覧船乗り場など主要な観光地に絞り、住民との〝乗り分け〟を進める考えだ。

地域主導で解決を

地域主導で解決を
道幅が狭い伊根町の舟屋周辺道路

 伊根町内ではバスで訪れる観光客のほか、マイカー客も増えている。ハイシーズンは駐車場不足が常態化しており、道幅の狭い舟屋周辺の道路ではバスや乗用車などの車両がギリギリですれ違うなどし、道を歩く観光客を始め、住民も危険にさらされているなどの課題もある。

 こうした現状をつぶさに見てきた伊根町観光協会の吉田晃彦さんは、「オーバーツーリズムの入り口に立つ状況の中、もちろんケアが必要であり、心配もしている。その半面、誘客にあえぐ地方の中で伊根を選び、多くの人が来ている状況は大変ありがたい」と、不安と期待が入り混じりながらも謝意を表す。

「観光地までの行き方やマナーなどを周知し、更により良い対策を」と話す伊根町観光協会の吉田さん

 「オーバーツーリズム」=「観光公害」ととらえず、うまくつきあい、地域主導で解決さえすれば地域にとって大きなプラスになる。

 吉田さんは「悲観的にならず、今起きている問題を世の中に伝え、観光地までの行き方やマナーなどを周知し、啓発していきたい。今、進めているオーバーツーリズム対策については内容を精査し、更により良い対策に、一緒になって取り組んでいきたい」と期待を話している。

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