日本の輝き1300年 丹後シルクの多彩な織

まちと文化

日本の輝き1300年 丹後シルクの多彩な織

シルクで織られた個性豊かな生地たちを、眺める。手に触れる。
ただそれだけで、気持ちの高まりや、心地よさを感じます。

人間の肌に最も近い素材「シルク」が持つ魅力に加え、丹後シルクが1300年にわたり絹織物の産地として磨いてきた、多彩な表情、風合い。
丹後のシルク生地は今、パリコレ作品に採用されるほどのハイクオリティなテキスタイルとして進化を続けています。

丹後シルク 〜しなやかさと、多様な質感〜

西暦711年。京都府北部・丹後地方にて絹織物の生産が始まって以来、丹後では1300年以上に渡って「シルク織物の産地」としての歴史を刻んできました。その経験を重ねる中で磨かれてきたのは、常に新しい生地の「表情」を生み出すための技術です。
その表情の本質は、しなやかさと、多様な質感。世界でも類を見ない、その風合いは、溶けてしまいそうなほどソフトな手触りから、ハードな風合いまで、非常に多様。ストレッチ性・弾力感・ドレープ性・シワ回復性など、用途に合わせて職人たちが自在にコントロールしていきます。

そして、糸を撚る技術「撚糸」と、ジャカード織機による織りを組み合わせた、多彩な織柄。織物は、色の違う糸や染め・プリントによって柄を出すものというイメージが強いかもしれません。しかし丹後の職人は、同じ色の糸だけを使用したとしてもあらゆる柄を表現でき、その種類は10,000種類以上と言われています。単色による濃淡、白い生地でも強弱をつけられる「織柄」の繊細さは、プリントでは表現しきれない立体感と質感を生み出します。

1色の糸で柄と濃淡を表現する「織柄」

天然繊維であるシルクの糸は「生き物」であり、同じ作業を繰り返したとしても、結果は異なるもの。織物は、多様な糸を組み合わせ、撚り、織るという、シンプルなようで複雑な工程を経て、出来上がります。その中で丹後の職人は日々生き物と向き合い、目的の質感・風合いを形にしています。その仕上がりは「最新の機械でも織れない」と言われるほど、人の技術によって支えられているのです。

織物を織る工程「製織」

和装の厳しい目で磨かれた、徹底的な品質基準

丹後は日本一のシルク織物生産地であり、そのシェアは全国の約70%※にも上ります。その背景には、丹後の織り手の生き様がありました。それは、難解な要望を受けても「なんとか形にしよう」とする粘り強さ。これは、丹後に住む人の気質なのかもしれません。要望に応えるということに、多大なエネルギーを費やすのです。
特に和装生地、つまりきものに使用する反物は、品質に非常に厳しい世界。ごく僅かなキズやフシ(糸の小さな塊)であっても「難物(なんもの)」と診断され、単価が下がる、または商品にならない、という基準があります。このため、丹後ではすべての反物を目視検査するという体制を整えてきました。
その厳しい品質基準の中で、次々と寄せられる新たな要望に答え、創意工夫を繰り返した結果、世界でも類を見ない風合いを持つ生地へと進化してきたのです。

※日本で生産される和装用後染織物(表地)の数量、(一社)日本絹人繊織物工業会の資料に基づき試算

世界へ。シルクの新たな可能性を切り開く精鋭たち

進化を続けるものは、新たな可能性を切り拓く。パリコレ出品作品での生地採用、ハリウッド映画での登用など…2005年頃から、シルク生地の海外展開に挑戦している精鋭たちがいます。

彼らは1300年続くシルク織物の伝統を活かしつつも、和装にとどまらない、ライフスタイル全域への商品開発にも挑戦を続けています。
彼らのクリエイティブな挑戦は、織り手一人ひとりの技術とセンスの結晶です。そして、その背景には、伝統的なシルク織物「丹後ちりめん」の技術がありました。

主な事例
フランスのファッションショー「パリ・コレクション」での複数回採用
世界最高峰のインテリア・デザイン関連見本市「メゾン・エ・オブジェ」出展
ハリウッド映画「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」の衣裳に採用
デンマークの音響ブランド「バング&オルフセン」Beosound2 Radenにて採用
ニューヨーク発のファッションブランドHIROMI ASAI氏との連携
ほか

世界最高水準の表情を生み出す和装生地ブランド「丹後ちりめん」

進化し続ける丹後シルクの根底には、300年以上の歴史を持つ「丹後ちりめん」の伝統的な技法・技術が息づいています。
丹後ちりめんとは、緯糸(よこいと)に強く撚りをかけた糸、強撚糸を使用して織られ、精練加工を経ることで生地表面に「シボ」と呼ばれる凹凸が生まれる、丹後の後染織物の総称です。厳しい検査を経た製品にブランドマークを押印し、高品質な「丹後ちりめん」として保証してきました。全国シェア70%に登る丹後ちりめんは、江戸時代以降、日本のきもの文化を支えてきたのです。

糸が縮む力で生まれる凹凸「シボ」

撚った糸=撚糸を使って織物を織ることは、非常に難しい技術です。経糸(たていと)の張力、緯糸を打ち込む回転数の調整など、経験によってしか得られない複雑な感覚が求められるためです。しかし丹後ちりめんの職人は永きに渡る技術の蓄積により、呼吸をするがごとく撚糸を自在に操ってきました。
 その表情の本質は、生地が3次元の奥行きを持つということ。糸が縮む力を利用して生み出す独特の凹凸「シボ」は、本来平面的である織物に立体感を与えます。撚糸一つをとっても糸の合わせ方や撚り回数など、組み合わせにより数え切れないほどの糸の種類が存在します。職人たちは組織の違いなどをかけ合わせることによって、生地表面に様々な表情を作り出してきました。

シボを立たせジャガードで地模様をあしらった丹後ちりめん
丹後ちりめんは和装の世界のスタンダード

2020年に創業300年を迎えた丹後ちりめん

丹後は1300年以上前から絹織物の産地でした。
しかし江戸時代に京都西陣で「お召ちりめん」が誕生した後、丹後の織物は「田舎絹」と呼ばれ、売れ行きが低迷。農業の凶作と重なり、人々の生活は極めて困窮しました。その危機を乗り越えようと京都西陣に赴き、ちりめん織りの技術を持ち帰った数名の先人たちがいました。
享保5年(1720年)、峰山(現京丹後市)の絹屋佐平治が京都西陣の機屋へ奉公し、糸繰り、糸口の仕掛け、シボの出し方などの秘伝の技術を学びました。苦心の末、その技術を持ち帰ったことで、丹後で初めてちりめん織りが成功しました。その2年後には加悦谷(現与謝野町)の木綿屋六右衛門が派遣した、手米屋小右衛門と山本屋佐兵衛が西陣より技術を持ち帰り、ここでもちりめん織に成功。これらが今日の丹後ちりめんの礎となったのです。彼らはその技術を人々に惜しみなく教え、瞬く間に丹後一円に広まりました。
その後、丹後地方の一大産業となった丹後ちりめんは2020年、創業300年を迎えました。

丹後の絹織物に革命的な影響を与えた「湿式八丁撚糸機」

気候と自然環境 「シルク産地」の条件を満たした場所

そんな丹後ちりめんが、産業として飛躍的に成長した背景には、一定の条件がありました。それはこの地の気候と自然環境です。

丹後のシンボル 日本三景 天橋立

シルク織物における一流のものづくりは、撚り・織り・練りの3つが揃って初めて実現できます。撚り=糸を組み合わせて撚る、織り=経糸と緯糸を組み合わせて織る、練る=精練によりシルクの不純物を取り除く。この3つがあって初めて、「産地」と呼べるのです。
まず、シルク織物に欠かせない「水」。丹後は山・川・海といった自然環境の根本となる地形がコンパクトにまとまっていることが特徴で、これら自然の間を縫うように人々が生活する町があります。このため、町は豊富で良質な水に恵まれ、大量の水を必要とするシルク織物の生産を支えてきました。
また丹後地方では「うらにし」と呼ばれる年間を通じて湿度が高く、雨や雪が多い気候が、シルクに適していました。乾燥に弱く、切れやすいシルク糸は、丹後の適度な湿度によって守られてきたのです。とりわけ、強く糸を撚る強撚糸の技術を培ってきた丹後にとって、水と湿度は独自の風合いを生み出すために欠かせない存在でした。
水と気候、積み重ねた人の技術。すべてが1つの場所に集結した結果、丹後は「撚り・織り・練り」のすべての工程を満たせる地域として成長してきたのです。

シルク織物の精練に使う水 「竹野川」の上流

シルク生地の風合いは、水で決まる。

世界にはシルク織物が織られている地域が点在していますが、その中でも丹後のシルク織物は、風合いの良さと品質が高く評価されています。同じシルクでも、大きな違いが出るその所以は、精練工程に使う「水」の違いにあります。
シルク生糸の表面には「セリシン」と呼ばれる成分があり、このセリシンには一定の硬さがあります。繭から取り出された生糸をコーティングしているセリシンを落とし、繊維であるフィブロインだけを残す工程のことを「精練」と呼びます。この精練は水仕事、とにかく水が最も重要。大量の水を使う中で、丹後の水は良質であることから、やわらかく、溶けるような手触りのシルク生地が得られるようになったのです。
その意味では、水というものが、シルク織物の可能性を広げたとも言えます。これらの撚糸技術と、シルク織物の風合いを決定づける精練技術。多くの水を必要とする工程を幾度もくぐりぬけ、1枚のシルク織物は出来上がっていくのです。
そして、そこから生まれたシルク独特の質感は、この土地ならではのもの。丹後のシルク生地が放つ光沢感は、永い間和装文化を支えてきた、日本の輝きです。

大量の水を使うシルク織物の精練工程

人の肌に最も近い素材「シルク」の可能性を、もっと。

丹後では、シルク織物の技術を礎として、「シルク」の可能性を広げる様々な取り組みを行ってきました。
この地球上に存在する天然繊維の中で、人間の肌に最も近い「シルク」。人間の肌が持つ20種類のアミノ酸のうち、18種類がシルクと一致することを考えても、人間にとって親和性が高い素材であることが伺えます。
このため衣類やインテリア・寝具類への利用はもちろん、化粧品や医療分野に至るまで、今シルクは新たな可能性を見直されています。丹後でも、シルクセリシンの保湿成分を活用したスキンケア化粧品「きぬもよふ」を開発したり、肌に優しいシルクマスクの製造に取り組むなど、活用の幅を広げています。

シルクセリシン配合「きぬもよふ」
丹後シルクを利用したマスク

私たちは地球環境のこと、人間の健康のことなど、様々な問題を抱えています。その時代にあって、天然素材が見直される今、人と親和性の高い「シルク」の可能性を広げることは、まさに次世代に向けての大切なバトンとなることでしょう。

美しい、丹後シルクの風合いに触れ、天然素材の可能性を肌で感じてみてはいかがでしょうか?

丹後ちりめんのメーカーが手掛けるシルクマスク♪抗菌防臭効果も実証済み!丹後ちりめんマスク

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