スキー場跡に歓声 京丹後の「スイス村」

山と生きる

スキー場跡に歓声 京丹後の「スイス村」

 白く染まった山肌に子どもたちの歓声が響く。
 京都府の北部、丹後半島の中央にそびえる標高683㍍の太鼓山。山頂付近の総合レクリエーション施設「京丹後森林公園スイス村」(京丹後市弥栄町野中)には、スノーチューブなど雪のアクティビティーが楽しめるエリアがある。
 近年には「府北部唯一のスキー場」でもあったスイス村。営業休止から5年。
 にぎわいを取り戻そうと、跡地の活用が進められている。

府北部唯一のスキー場に

 スイス村は、山々に抱かれた同市弥栄町の野間地域にある。積雪量が多い山村の野間は、未曾有の大雪に見舞われた1963(昭和38)年の「サンパチ豪雪」により一部の集落で住民の離村が加速。離村時に国が買い上げた土地の一部が同市発足前の旧弥栄町に払い下げられ、町が観光振興を図ろうと78年にキャンプ場などを備えた「森林公園スイス村」をオープンした。

 豊富な積雪を生かし、84年にはスキー場が誕生。ピークの91年度には約4万2千人の利用があったものの、人口減少や少子化、レジャーの多様化などを背景に2009年度以降は1万人を割り込んだ。その間、同様に利用者数が低迷していた周辺のスキー場が閉鎖され、府北部で営業を続けるスキー場は16年以降、スイス村だけになっていた。

35年間の歴史に幕

35年間の歴史に幕
今となっては動かないリフト

 「府北部唯一のスキー場」となったが、落ち込んだ利用者数は戻らなかった。厳しい状況が続く中、追い打ちをかけたのが、地元住民が「70年間、経験したことがない」と驚くほどだった18年度の雪不足だ。このシーズンは営業できず、今後も雪不足が懸念されることや回復が見込み難い利用者数、そして老朽化したリフトの維持に多額の費用が必要となることが決め手となり、19年度も営業を断念。このままリフト再稼働のめどは立たず、スイス村のスキー場は35年間の歴史に幕を閉じた。

ゲレンデを活用へ

 21年に転機が訪れる。この年の4月からスイス村の新たな指定管理者になった㈱エーゲル(京都市)は、スキー場跡の活用に乗り出した。太鼓山やゲレンデを走るトレイルランニングのコースを設定し、夏には大会を誘致。そして初めて迎える冬、本来であればスキー客を誘致したいところであったが、リフトが動かないのでスキー場としては営業できない。

 「雪で何かできないだろうか」。支配人の森川哲己さんらスイス村スタッフたちが頭をひねったところ、ふと目に留まったものがあった。スキー場だった頃に貸し出されていたスノーチューブだ。技術が必要なスキーやスノーボードとは違って手軽に楽しむことができ、ソリのように硬くないので滑走しても雪が削れにくく、コースの維持管理もしやすい。スキー場跡で提供するアクティビティーに適したものだった。

「スノーどんどんパーク」がオープン

「スノーどんどんパーク」がオープン
スキー場跡一帯を活用した「スノーどんどんパーク」

 スキー場跡にスノーチューブエリアや雪遊びエリア、スキー・スノーボードコースを設け、22年1月に「スノーどんどんパーク」をオープンした。ターゲットに据えるのは子ども。気負わずに雪のアクティビティーが楽しめる場とし、子ども連れやスキー・スノーボード未経験者にとってハードルの高さが感じられるスキー場との差別化を図った。

 利用の受け付けは、どんどんパークから離れた場所にあるスイス村の管理棟「丹後天橋立大江山国定公園ビジターセンター」で行う。

 かつてスキー客はセンターからゲレンデにリフトで移動していたが、今となってはリフトが使えないので、どんどんパークへは雪上車で送迎する。来場者にとっては、最初の移動から非日常的な雪の体験だ。

お勧めは「すべり放題」

お勧めは「すべり放題」

 スキーやスノーボード、スノーシューなどとともにスノーチューブもレンタルできるが、存分に楽しむなら「スノーチューブすべり放題」のプランがお勧めという。コースのスタート地点にあるスノーチューブを使うことができるのでスノーチューブを自分で運ぶ必要はなく、何度でも滑りやすい。一日中、滑り続ける子どももいるほどだ。

 スノーチューブは子どもやゲレンデ初心者も利用するため、安全には細心の注意を払う。スピード感がありクルクルと回転する不規則な動きでスリルがあるものの、スピードが出てもコースアウトしないように整備してあり、安心して楽しめるのが特長だ。スノーチューブは二人乗りができる大きさなので、保護者と一緒に乗ることで小さな子どもの利用にも対応する。

雪のアクティビティー

雪のアクティビティー
雪遊びができる「ちびっこ広場」

 どんどんパークではスノーチューブ以外にも雪のアクティビティーがある。平地の「ちびっこ広場」は雪だるま作りや雪合戦などの雪遊びができ、斜面にはハイクアップ(斜面を自力で登る)であるもののスキー・スノーボードの滑走可能エリアを設定。展望ポイントの「天空デッキ」などを目指すスノートレッキングも楽しめる。

 また、スイス村には「山の家」や「風のがっこう」などの宿泊施設があり、通年で営業するキャンプ場では「雪中キャンプ」が可能。自分で雪かきをして必要なスペースを確保する本格的なアウトドア体験ができる。

音楽を楽しむキャンプ場

音楽を楽しむキャンプ場

 一方、スキー場跡の一角に22年6月、全国的にも珍しい音楽に特化したキャンプ場が誕生した。音響設備を備え、スタジオやライブハウスの機能を持った「BEAT CAMP(ビートキャンプ)」で、野外フェスの会場や音楽愛好家の合宿などに使われ、これまでとは違った客層の獲得につなげている。

野外の演奏に対応

 ビートキャンプを開設したのは、ライブハウス「神戸VARIT.(バリット)」を経営する㈲アームテックパブリシャーズ(神戸市)。新型コロナウイルス感染拡大の影響で打撃を受け、活路を見いだそうとコロナ禍で人気が高まったアウトドアに音楽を組み合わせた施設を構想したところ、スキー場跡の活用を図るエーゲルと意向が合致した。

 一般的にキャンプ場は静かに過ごす場所だが、ビートキャンプは音楽を楽しむ施設。スキー場跡にある1750㎡の平地をビートキャンプのエリアとし、スタジオなどとして使える3棟のコンテナハウスを設置した。コンテナを開放すればステージになり、野外での演奏にも対応。人里から離れたスイス村だからこそできることだ。

つじあやのさんら招きフェス

つじあやのさんら招きフェス
ICHI FES事務局提供

 22年は、つじあやのさんら8組のアーティストが出演した「ICHI FES 2022」などの野外フェスが開かれたほか、利用した音楽愛好家がバーベキューなどとともに演奏を楽しんだ。積雪のある冬は休業し、23年は春から始動する。

ICHI FES 2022

生み出される新たな活気

 雪遊びに音楽―。府北部唯一のスキー場はなくなったが、跡地は人々が楽しむ場として生かされ、新たな活気が生み出されている。

京丹後森林公園スイス村

BEATCAMP

Share

カテゴリ一覧に戻る