新フルーツで地域ににぎわい 舞鶴・大浦半島のブルーベリーとレモン

山と生きる

新フルーツで地域ににぎわい 舞鶴・大浦半島のブルーベリーとレモン

 舞鶴市の北東部に位置する大浦地域。穏やかな舞鶴湾から若狭湾に至る半島で、海に面する漁村と山間に広がる農村が点在する自然豊かなエリアだ。そんな大浦半島の地域住民が、新規フルーツで地域活性化を目指している。観光農園「ブルーベリーバレーまいづる」と生産者グループ「大浦パパレモン」の取り組みを紹介する。

限界集落にブルーベリーの観光農園

限界集落にブルーベリーの観光農園
舞鶴市室牛に開園した「ブルーベリーバレーまいづる」

 「ブルーベリーバレーまいづる」は、山と田んぼに囲まれた舞鶴市室牛(むろじ)に昨年開業したばかりの観光農園だ。夏季にはブルーベリーの摘み取り体験が楽しめるほか、12月ごろまではブルーベリーとハーブの農園カフェがオープン。大浦半島ののどかな農村集落に、にぎわいをもたらしている。

室牛地区に明るい未来 「ブルーベリーバレーまいづる」

室牛地区に明るい未来 「ブルーベリーバレーまいづる」
農園カフェに立つオーナーの児玉さん夫妻

 オーナーは室牛地区の住民で、51歳で市役所を退職した児玉亘さん。同地区は大浦半島の河辺地区にある村の一つで、集落には7世帯15人が暮らす。児玉さんは高齢化が著しく限界集落となっている古里の明るい未来を築くため、市役所の同僚だった妻智子さんとともに早期退職し、就農。村への誘客と持続可能な農業を両輪で進めるブルーベリーの観光農園を始めた。

誘客と持続可能な農業を

誘客と持続可能な農業を
持続可能な農業を目指し、ブルーベリー園を開設した児玉さん

 ブルーベリーの観光農園はまだ全国的に少なく、注目を集めやすい。更にアメリカなどでは美容に良いスーパーフードとされ、高まる〝食〟の健康志向のニーズにマッチするほか、ジャムやジュースなど加工性にも優れている。

 また、ブルーベリーの旬は6~8月で田植えと稲刈りの間に観光農園が営業できる。

 児玉さんは「可能性が見えた。将来性がある新しい農作物で、稲作がメインの地域に合う農業形態でもある。これなら持続可能な農業を実現できるのでは」と考えた。

皆が安心してブルーベリーの摘み取り体験が楽しめる

 先進地を視察し、農園にはブルーベリーを鉢植えで育てる最新の養液栽培を導入することにした。地植え栽培に比べ衛生的で様々な品種を効率良く栽培できるのが特長だ。地面には防草シートを張り、土で靴が汚れることもなく、でこぼこも少ない。ベビーカーや車いすでも入場でき、高齢者や小さい子どもでも安心してブルーベリーの摘み取り体験が楽しめる。

ブルーベリーとハーブの農園カフェも

ブルーベリーとハーブの農園カフェも
農園カフェで提供しているブルーベリーのスムージー

 自宅前に広がる約2400㎡の田んぼをブルーベリー農園に変えた。40種類600本のブルーベリーを植えており、来園者は様々な品種の食べ比べを楽しんでいる。

 農園カフェでは採れたての新鮮なブルーベリーの実を使ったスムージーやアイス、ピザを提供するほか、保健師で「ハーバルセラピスト」の資格を持つ智子さんがハーブ園で育てたハーブのオリジナルティーなども。女性客を中心に好評で、何より、大自然に囲まれたロケーションは他では味わえない。

最も小さな村に新しい風 モデルケースに

最も小さな村に新しい風 モデルケースに
児玉亘さん(右)は、大浦半島には、まだまだ美しい景観と資源がたくさんあると話す

 初年度はカフェを含む40日間の営業で約1400人が来園。2年目はブルーベリー狩りを楽しんだ660人を含め、口コミやSNSで知った市内外の客が、2500人以上来園している。開業から延べ4000人以上が室牛地区を訪れており、大浦半島で最も小さな村に新風を吹き込んだ。

 今後はブルーベリーの木の成長とともに来園者を増やし、品種の拡大、メニューの改良などに注力していく。児玉さんは「『心も体も健康になれる癒やしの農園』として都市部の観光客らにPRしていきたい」とし、「大浦半島には海や山など、ここ以外にも美しい景観と資源がある場所がたくさんある。そこには私のように『村ににぎわいを』と考えている人も少なくなく、室牛のブルーベリー園が地域を見直すきっかけにもなっているのでは。モデルケースとして成功を収めていきたい」と意欲を燃やしている。

ブルーベリーバレーまいづるのホームページ

安心安全のブランドレモン生産

安心安全のブランドレモン生産
大浦パパレモンのメンバー。左から2人目が代表の森さん

 一方、「大浦パパレモン」は地元の農業者や漁業者らが集まって3年前に発足した農業者グループ。大浦半島で安心安全なブランドレモンを生産し、次世代につなげる地域農業の確立を目指している。

次世代につなげる農業を 「大浦パパレモン」

次世代につなげる農業を 「大浦パパレモン」
レモンは日当たりの良い舞鶴市佐波賀の傾斜地で栽培している

 グループの代表は舞鶴市赤野の農園でイチゴや万願寺甘とう、コメなどを生産する森剛さん。

 メンバーはカキを養殖する漁業者や会社員、自営業者ら6人で構成する。レモンを栽培している場所は半島の中でも日当たりの良い同市佐波賀(さばか)地区の傾斜地で、遊休農地を活用している。

耕作放棄地を活用 商品名は「京都潮風檸檬」

耕作放棄地を活用 商品名は「京都潮風檸檬」
大きく実った「京都潮風檸檬」

 大浦半島では特産の「大浦みかん」やはっさく、夏みかんなどの柑橘類が良く育つ。レモンを選んだのは料理や加工品の原料としても重宝され、「無限の可能性を秘めている」(森さん)から。また、輸入レモンは皮に防カビ剤などが塗られていることも多く、安全な国産レモンの需要は高いと判断した。

 日当たりの良い佐波賀地区は、寒さや霜に弱いレモンの栽培地として、最適の場所だった。持続可能な農業とするため耕作放棄地を活用し、肥料には放置竹林の竹、土壌改良剤には廃棄していたカキ殻を使用している。

 現在、レモン農園は約70㌃にまで広がり、約500本を栽培している。商品名は「京都潮風檸檬」。主な供給先は市内のレストランや直売所で、「フレッシュ感があり、味が濃く酸味も十分にある。何より安心して皮が使える」と評判は上々だ。

広告塔にキッチンカー レモネードなど販売

広告塔にキッチンカー レモネードなど販売
イベントでレモネードなどを販売するキッチンカー

 レモンの品質向上と安定供給に努めながら、より多くの人に大浦産レモンを知ってもらおうと、レモネードやレモンスカッシュ、ビールなど口にしやすい飲料を商品化。「広告塔」となるキッチンカーも導入し、積極的にイベントなどで売り始めた。今季のレモンは12月以降に販売する。来年には1.6㌧の出荷を見込んでいる。

 「地域の子どもたちが誇りに思うようなレモンを作り、若者が舞鶴に戻り、集まる農業を展開していきたい」と話す森さん。「子どもらが地域に親しみ、将来的には関わり続けたいと思える環境をつくりたい」と意気込む。

観光や地域交流の受け皿に 「直売所」も計画

観光や地域交流の受け皿に 「直売所」も計画
大浦産の農産物と水産物の直売所が計画されている建物

 更に、旧JAの建物を活用し、観光客や市民を大浦地域に呼び込む農産物と水産物の直売所を開設する構想もある。

「直売所ではマルシェなども開催したい」と話す代表の森さん

 森さんは「大浦半島には海と山に囲まれた自然豊かな環境があり、四季折々の景観や海産物、農産物など他にはない資源がそろっている。しかしながら人口減や高齢化で地域の活力が低下しており、観光客や交流人口を増やして地域外からの流入を促進することが課題になっています」と指摘する。

 直売所では観光や地域交流の受け皿となる場所を想定し、「地産地消、新鮮、安心」を求める消費者、観光客のニーズに対応する地元農・水産物の開発、販売拠点を目指す。

 森さんは「観光は単に訪れるだけでなく、地域に新しいつながりを生み出して住民の誇りや元気を取り戻す大切な要素。マルシェや農業体験も企画して皆が気軽に立ち寄れる場所にしたい」と夢を膨らませている。

大浦パパレモンのホームページ

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