京丹後に唯一無二の食材「フルーツガーリック」

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京丹後に唯一無二の食材「フルーツガーリック」

 「体が必要とするものを、脳はおいしいと感じる」

 この仮説から、国内外の一流シェフに選ばれる食材が生み出された。京都府北部の京丹後市で作られる「フルーツガーリック」。独自技術により、何も加えずにニンニクをじっくりと熟成・発酵させたもので、口にするとプルーンのような甘酸っぱさに加え、うまみが広がる。和洋中の料理や菓子のほか、健康づくりにも用いられる、唯一無二の存在だ。

「農商工連携」で黒にんにく

 フルーツガーリックを作るのは、同市大宮町森本の㈱創造工房。地域に新たな産業を生み出そうと2008年、市内の農家との「農商工連携」により、地元で栽培されるニンニクを使った「黒にんにく」の製造事業に参入したのが始まりだった。

 黒にんにくは、ニンニクを高温多湿の環境に長時間置いて黒く熟成させたもので、ニンニク特有の香りはマイルドになり、甘みが出る。紀元前から栽培され、食材や薬用として世界で長い歴史を持つニンニクだが、黒にんにくが生まれたのは日本。栄養価の高さが注目され、2000年代から主に健康食品として国内で広がり始めた。

体が必要とするものを、脳はおいしいと感じる

体が必要とするものを、脳はおいしいと感じる

 創造工房が黒にんにくの製造を始めた頃、黒にんにくは健康効果を期待して食べられるものだったが、社長の早川雅映さんは「健康」だけでなく「おいしさ」も意識した。おいしさと健康への効能を併せ持つスーパーフードを目指し、「同じ食べ物のはずなのに、食べる時の体調によって感じるおいしさが違う」という着眼点から仮説を立てた。

 「人の体は自分が必要とするものはおいしく感じるが、食べ過ぎたり、そうでないものはおいしく感じないようにできていて、自然と食べるものをコントロールしている。体に必要なファクター(要素)を増やせば増やすほど、おいしく健康にも良いものができる」

 仮説に基づき、黒にんにくがスーパーフードとなり得る熟成・発酵の環境を探りながら試行錯誤したところ、ほかの黒にんにくとは一線を画すフルーツガーリックが誕生した。

世界1位のレストランが採用

 健康食品という側面が強かった黒にんにくだが、フルーツガーリックはフルーツのような味わいで食材としての評価を獲得。製造を始めて数年後には、イギリス専門誌主催の「世界のベストレストラン50」で数回にわたり1位に輝いているデンマーク・コペンハーゲンのレストラン「noma(ノーマ)」など、国内外の有名レストラン等で使われるようになった。

健康食品としても

 当然、健康食品としても好評を得ている。従来、黒にんにくは男性が購入するケースが多かったが、フルーツガーリックは味や香りの違いから女性にもユーザーを広げた。購入者からは「夏バテしなくなった」「基礎体温が上がった」「風邪をひきにくくなった」などの声が寄せられており、高い健康効果が期待できるという。

企業秘密の独自技術

企業秘密の独自技術

 では、フルーツガーリックと、ほかの黒にんにくは何が違うのか?

 早川さんによると、自身が考案した新たなうまみ成分の概念「UMAMI-X(ウマミエックス)」を持つことだという。フルーツガーリックの製法は「企業秘密」としているが、「熟成」や「発酵」に関する独自技術「フルーツガーリック・テクノロジー©」により、UMAMI-Xを付加しているという。

 早川さんはフルーツガーリックを開発する際に立てた「体が必要とするものを、脳はおいしいと感じる」という仮説を基に、「人が感じるうまみには『グルタミン酸』などの成分だけでなく未知の領域がある」と考え、それをUMAMI-Xと名付けた。そして、従来のうまみ(UMAMI)と合わせて<UMAMI + UMAMI-X = UMAMIX(ウマミックス)>となって味覚を構成していると導き出した。

世界のシェフが認めるUMAMI-X

世界のシェフが認めるUMAMI-X
「サン・セバスチャン・ガストロノミカ」でUMAMIXの実験を行う早川さん(左端)

 確かな舌を持つ世界のシェフがUMAMI-Xの存在を認める。

 「美食の町」として知られるスペインのサン・セバスチャンで開かれ、一流のシェフが集まる食の学会「サン・セバスチャン・ガストロノミカ」。創造工房は3回目で単独出展となった17年、<UMAMIX = UMAMI + UMAMI-X>を発表した。

 ワインやオリーブオイルの入ったカップに小さくちぎったフルーツガーリックの皮を入れたり、更にはカップを皮の上に置いてから味を比較する実験では、試飲・試食した人の9割以上が前後での味の変化を認識した。「何が起きているんだ」。トップレベルのシェフらから驚きの声が上がった。

テクノロジーを応用

テクノロジーを応用

 UMAMI-Xを生み出すフルーツガーリック・テクノロジー©はニンニク以外にも応用でき、活用した商品が開発されている。

 その一つが、日本酒「純米吟醸 伊勢光」。伊勢神宮ゆかりの米「イセヒカリ」を使い、地元の酒蔵と連携して商品化した。杜氏(とうじ)が研鑽(けんさん)してきた日本酒の醸造技術にフルーツガーリック・テクノロジー©を掛け合わせ、より良い発酵状態で醸したという。

奇跡的に育ったイセヒカリ

奇跡的に育ったイセヒカリ

 イセヒカリは1989年に伊勢神宮の神田で発見された。実は伊勢神宮と京丹後市は深い関わりがあり、伊勢外宮の祭神「豊受大神(とようけのおおかみ)」は同市の磯砂山(いさなごさん)に降り立った天女だったという伝説がある。こうした背景から早川さんはイセヒカリに着目。伊勢光の開発に乗り出すきっかけとなった。

 伊勢光の原料には、特別なイセヒカリを用いる。早川さんが10年ほど保管していた穂から奇跡的に発芽して育った10株のイセヒカリを親とする「令和イセヒカリ」だ。早川さんは「生命力の強い株が選抜され、すごい力を持っているのでは」と語る。

「百薬の長」の酒に

 伊勢光を醸造するのは、「亀の尾蔵舞」など酒米の名称を冠した純米酒「蔵舞」シリーズやラグジュアリー市場に向けた特別な日本酒を展開する同市の竹野酒造㈲。市内で栽培された令和コシヒカリを60%まで磨き、純米吟醸酒に仕上げた。

 早川さんは「フルーツガーリック・テクノロジー©を応用することで『百薬の長』としての酒を目指した」と語る。

〝熟成〟させた、まろやかな塩

〝熟成〟させた、まろやかな塩

 手軽に使える調味料として展開するのが「熟成塩」。フルーツガーリック・テクノロジー©で天然塩を〝UMAMI-X熟成〟させることで、塩辛さを抑えた深みのある味わいに変化させたという。

 ベースはモンゴル産の湖塩(岩塩が湖底で再結晶したもの)。フルーツガーリック・テクノロジー©で熟成が進むにつれて角が取れ、まろやかな味わいに変わっていくという。

 早川さんは熟成塩について「日々の料理をレベルアップさせることができ、みそや梅干しの仕込みに使えば良いものができる」と説明する。

今も進化、色々なことに挑戦へ

 ニンニクがフルーツガーリックとなり、その技術を活用した酒や塩も商品化された。早川社長は「フルーツガーリック・テクノロジー©は今も進化し続けている」と胸を張り、「これからも色々なことに挑戦していきたい」と力を込める。

創造工房

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