テロワール―。ワインを語る際、よく使われる言葉だ。意味は、産地の個性。原料のブドウが作られる環境が、ワインの味わいや香りの違いにつながるということだ。
海の京都(京都府北部)の与謝野町では、ビールでテロワールが生まれつつある。地元で栽培されるホップに、若者が立ち上げたブルワリー(ビール醸造所)。2つが合わさり、与謝野ならではのビールが産声を上げようとしている。
まちと文化
テロワール―。ワインを語る際、よく使われる言葉だ。意味は、産地の個性。原料のブドウが作られる環境が、ワインの味わいや香りの違いにつながるということだ。
海の京都(京都府北部)の与謝野町では、ビールでテロワールが生まれつつある。地元で栽培されるホップに、若者が立ち上げたブルワリー(ビール醸造所)。2つが合わさり、与謝野ならではのビールが産声を上げようとしている。
鬼伝説で知られる大江山と日本三景・天橋立を望む阿蘇海に抱かれた与謝野。ブランド米「京の豆っこ米」などが栽培される農業が盛んな町で、ビールの原料であるホップの産地でもある。
ホップはアサ科の多年生つる植物。雌しべの「毬花(まりはな)」という部分がビール造りに使われる。毬花の中にある黄色い粒「ルプリン」がビールならではの苦みや香りをもたらし、泡持ちや殺菌の役割も持つ。
国内では明治初期に北海道で栽培が始まったとされ、今では岩手県などの東北地方が主要産地となった。与謝野で作られるようになったのは2015年からだ。
なぜ、与謝野でホップなのか。背景にあるのは、個性的なクラフトビールを造る小規模ブルワリーの存在だ。
当時、国産ホップの大半は大手ビールメーカーとの契約栽培。小規模ブルワリーでは調達が難しく、ホップは外国産を使わざるを得なかった。与謝野の農家と町は、供給先が限定されない「フリーランス」としての需要が見込めるホップ市場に着目。日本ビアジャーナリスト協会代表理事の藤原ヒロユキさんをアドバイザーに迎え、「京都与謝野ホップ生産者組合」がホップ作りに乗り出した。
ホップは冷涼な地で栽培され、世界の産地は35~55度の緯度に分布する。与謝野の緯度は範囲内であるものの下限に近い。組合員の農家に栽培の経験もなく、当初は不安もあった。だが、ふたをあけてみれば、2戸の農家が29㌃の農地で栽培した初年度で106㌔の収穫に成功した。
国内初のフリーランスのホップ産地として知られるようになり、生産は拡大していった。22年で生産者は8戸に増え、栽培面積は140㌃、収量は994㌔。出荷先のブルワリーによって「京都 YOSANO IPA」などの「与謝野」を冠したクラフトビールが商品化されている。
与謝野のホップには、2つの大きな特長がある。
まず一つが手摘み。機械摘みに比べると手間は掛かるものの、良い状態の毬花だけを選んで収穫できる。
そしてもう一つが、乾燥させない「フレッシュホップ」であること。収穫後、その日のうちに真空冷凍することで鮮度を保ち、ホップ本来のポテンシャルが出せる状態でブルワリーに届ける。
藤原さんは19年に与謝野に移住。自らホップ栽培も行う。ビアジャーナリストや国際ビアコンテストでの審査員の経験から、「海外のコピーをするだけでなく、ジャパニーズスタイルのビールも必要では」という思いを持つ。そのために必要と考えるのが国産原料。与謝野のホップは、その一つだ。
今年、組合が与謝野で作るホップは、イブキやカスケードなどの11品種。与謝野に適したものを探り、当初の29品種から絞った。他地域の生産者が「香りが違う」と話すなど、与謝野ならではの個性が出てきているという。藤原さんは期待する。「ビールでテロワールが感じられるようになる」
個性が出せる原料がありながらも、与謝野には町内で造られるビールがなかった。だが今夏、町内初のブルワリーが京都丹後鉄道の与謝野駅(与謝野町下山田)前に完成。「ホップのまち」から「ビールのまち」へのステップに弾みがついた。
ブルワリーを運営するのは㈱ローカルフラッグ。社長の濱田祐太さんが、大学在学中の19年に古里の与謝野で設立した。地域を盛り上げようと、まちづくりに関する事業を手掛けており、その一つが地元のホップを活用したビール事業。産業や雇用の創出につなげる考えで、当初から自社製ビールの製造を計画していた。
まずは他社に製造を委託し、20年に与謝野のホップを使ったクラフトビール「ASOBI(アソビ)」を商品化した。柑橘のようなフルーティーな香りが特長で、府内の食品スーパーなどに販路が広がっている。
「ビールのまち」へと歩を進めるため、次の段階はブルワリーとなった。建設地を検討すると、たどり着いたのが町内唯一の駅である与謝野駅。まちの玄関口だ。公共交通での来場ならビールを飲んでもらえるし、有名観光地の天橋立駅からわずか2駅と近い。濱田さんは「駅前に人を呼び込み、まちを盛り上げていきたい」と考えた。
駅前の土地を取得し、ブルワリーを建設した。醸造設備とともに飲食店を設け、新たな事業拠点として本社も移転。「TANGOYA BREWERY&PUBLIC HOUSE」の名称で今年7月1日にオープンした。
醸造設備は、6基の発酵タンクを設置。一度に6種類のビールが造れる。免許の交付を待ち、今秋からのビール造りを予定する。
販売量の多いアソビは他社への製造委託を続け、ブルワリーでは新たなブランドのクラフトビールを商品化する。与謝野のホップとともに他の地元食材の活用も視野に入れ、より個性や付加価値が打ち出せるものを目指すという。
既に営業する飲食店では、アソビや他社製のクラフトビールを提供。ビールと相性の良いフードメニューもそろえ、一口カットで楽しむピザ「ピザバイツ」やアソビで煮込んだ「豚のASOBI煮」などがある。醸造が始まれば、できたてのビールとともに味わえるようになる。
地元のホップを使い、地元で醸す―。与謝野らしいビールが見えてきた。ビールのテロワールを楽しむ旅が、海の京都で実現しそうだ。
与謝野では、ホップ栽培からビールに関われる。与謝野ホップ生産者組合は毎年、ホップ栽培のサポーター「YOSANOホップレンジャー」を募集。ホップ好きの人やホップ作りを考えている人などが対象で、栽培期間中は1日だけでも複数日でも参加が可能。与謝野町観光協会で登録を受け付けている。
海の京都を代表する逸品(ビール、鮮魚、干物、牡蠣、カニ、和牛、スイーツ、フルーツ、新鮮野菜、お米etc)がずらり勢揃いした海の京都市場。
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