舞鶴の〝本物〟が集う場所へ 進化する赤れんがパーク

まちと文化

舞鶴の〝本物〟が集う場所へ 進化する赤れんがパーク

 日本海の港町、京都府舞鶴市のシンボルである赤れんが倉庫群。旧海軍に由来する歴史的建造物で、保存活用が進み市民と観光客が交流する「舞鶴赤れんがパーク」として開放されている。海軍鎮守府が置かれた舞鶴の歴史文化を伝える観光施設で、近年は官民一体となって再整備が加速。「舞鶴の〝本物〟が集う赤れんがパーク」をコンセプトに、多彩なイベントが催され、新しい施設も続々と誕生している。市内外から多くの人が集まるようになり、歴史文化にとどまらずアートやファッションを発信する拠点に。その〝進化〟に迫る。

国の重要文化財で、文化庁の日本遺産にも認定されている赤れんが倉庫群

 舞鶴の赤れんが倉庫群は旧海軍が鎮守府を開庁して以降、1901(明治34)年から1921(大正10)年までに建設された。武器や弾薬を保管する倉庫で、特に北吸地区に残る赤れんが倉庫群は全12棟のうち8棟が国の重要文化財に指定されており、ほかの旧海軍施設とともに文化庁の日本遺産に認定されている。

 その歴史的建造物の価値を後世に残そうと90年代から保存活用が進み、2012年に観光交流施設「舞鶴赤れんがパーク」として全面オープン。近畿北部有数の観光スポットとなっている。

レトロな雰囲気の「北吸トンネル」

 パークはJR東舞鶴駅から徒歩で約20分。駅前に広がる商店街を歩くルートやれんが積みのレトロな「北吸トンネル」を通るルートなどがあり、道すがら東舞鶴の市街地を楽しむことができる。また、パークには隣接する大型駐車場(500台分)を完備しているほか、駅間を約1時間で運行している路線バスの停留所があり、公共交通機関の利用もできる。

世界のれんがを集めた「赤れんが博物館」

 舞鶴の赤れんが倉庫は、まちづくりを進める市民団体の活動をきっかけに保存活用が進み、90年代に改修工事が本格化した。アイコンの一つ、「赤れんが博物館」は赤れんが倉庫1号棟を改修。世界中のれんがを収集・展示する、ほかに類を見ない博物館だ。

 市役所隣の2号棟を改修した「市政記念館」は多目的ホール、展示室を備えた芸術文化の交流の場。「海軍カレー」などの旧海軍に由来したグルメやスイーツを出すカフェもあり、市民や観光客でにぎわう。また、3号棟には舞鶴や若狭地方の特産品を集めた土産店が営業。イベントや休日には多くの来場者が訪れ、充実した時間を楽しむことができる。

観光客に大人気の「海軍ゆかりの港めぐり遊覧船」

 2000年代からは「海軍ゆかりの港めぐり遊覧船」を運航。岸壁に停泊する海上自衛隊の護衛艦や旧海軍由来の造船所などを海上から眺めることができる大人気のコンテンツで、潮風に揺られながら間近に迫るイージス艦などの海上自衛隊艦艇を体感できる。

ウッディ―ハウスが管理運営している舞鶴赤れんがパーク

 パークは令和の時代に入り、大きな転機が訪れる。更なるにぎわいを創出するため2022年、市が民間活力を導入。京阪神や東海地方などでも衣料のセレクトショップを展開する地元のアパレル会社「ウッディーハウス」が、パーク一帯の管理運営を担うことになり、再整備が加速する。

 再整備のコンセプトは創業の理念と同じ「地方にも本物を」。市内事業者とともに地域活性化に向けたチャレンジが始まった。

サカナテラスの海鮮丼、店舗(写真上)と、京都舞鶴ブルワリーとクラフトビール(同下)

 パーク内の芝生広場には待望の海鮮グルメを提供する「サカナテラス」がオープン。舞鶴港の鮮魚仲買人が手掛けた店で、地魚などを使った海鮮丼や寿司、総菜なども販売し、観光客や市民にも好評だ。

 国道に面した最大の倉庫、5号棟にはビール醸造施設「京都舞鶴ブルワリー」が完成。地元のピッツェリアがカフェ併設型のブルワリーを開業したもので、赤れんがの大空間で造られる舞鶴唯一のクラフトビールが楽しめる。

市内外の若者や家族連れなどが集まる「赤れんがバザール」

 5号棟には舞鶴名物のプリンや缶詰の店などが出店。大ホールも備えてあり、空調を整備するなど環境を整えることでイベントが増え、その内容も大きく充実してきた。

 舞鶴の手作り市をテーマにした「赤れんがバザール」は年々、規模が拡大。神戸や大阪などからの若い出店者も参加するようになり、市内外の若者や家族連れなど数千人が集まる催しに成長した。

パーク全体がにぎわう一大イベントとなった「ウッディーハウスフェスタ」

 アウトレット衣料などを販売する「ウッディーハウスフェスタ」(愛称・ウッフェス)は近年、3日間で約4万人が集まる大きなイベントに。衣料販売のほか、市内外の店が集まるマルシェ、キッチンカーなどでパーク全体が終日にぎわう一大イベントとなった。

アートスペースのギャラリー

 一方、芸術文化を発信する拠点も。4号棟2階にはアーティストが使用できる工房を備えた「アートスペースVONTEN(ヴォンテン)」が開業。「舞鶴にはアーティストが多い割に制作する場所がない」。こんな思いから地元のデザイン会社が開設した工房で、作品を展示販売するギャラリースペースもあり、若い創作家たちのよりどころとなっている。

赤れんがパークの高台に開業した「atick」

 2024年9月にはパークに隣接する高台に、集大成ともいえる施設が完成。観光とアパレルを融合させた「atick(アティック)」。衣料とアウトドアショップ、近畿北部初の「BEAMS JAPAN(ビームスジャパン)」、カフェ、展望台、サウナ、ドッグランなどで構成する複合商業施設だ。

アティック内で営業しているウッディ―ハウス、ビームスジャパン、グッドサウンドコーヒー

 アパレルショップではウッディーハウスのバイヤーが厳選したこだわりのメンズ、レディース服、雑貨を置くほか、舞鶴の縫製会社で仕上げた同社のオリジナルブランド「SOLAMONAT(ソラモナ)」の店舗も。アウトドア店では「THE NORTH FACE」や「Patagonia」など高機能、高デザインの衣類、バッグ、シューズ、グッズなどが充実している。

 全国9店目となる「ビームスジャパン」の舞鶴店では、洗練された日本土産のほか、同店限定のオリジナルグッズや京都府北部の織物事業者、デザイナーとのコラボグッズなどを販売。

 カフェは音響にこだわった「GOOD SOUND COFFEE(グッドサウンドコーヒー)」が進出。東京、大阪に次ぐ店舗で、3D音響と舞鶴湾の絶景を満喫しながらコーヒー、軽食、スイーツが楽しめる。

屋上には絶景を楽しむバレルサウナと展望台がある

 屋上には、舞鶴湾に浮かぶ護衛艦や対岸の造船所、そして日本海側最大級の斜張橋「クレインブリッジ」が一望できる展望台を整備した。更に、樽の形状をした「バレルサウナ」を展望デッキに設置。舞鶴の新しい絶景を楽しみながら〝ととのう〟体験を用意した。

赤れんがパーク事業を担当するウッディーハウスの猪野さん

 まさに再整備のコンセプトを体現するような施設が完成。一定のハード整備を終えた今、赤れんがパーク事業を担当するウッディーハウスの猪野隆太さんに今後の展望などをうかがった。

 ―再整備の目玉ともいえるアティックが完成しました。

 地元や京阪神、東京などからもお客様がみえています。ビームスジャパンなどの発信力の影響もあり、弊社の地域活性化への取り組みが大学や行政からも注目を集めています。

 ―これから力を入れていくことは?

 赤れんがパークではイベントの評判が評判を呼び、年々、市外の若い事業者さんの参加が増えています。それに伴って地元以外のお客さんも増えて良い相乗効果が生まれており、今後は新しい企画などソフト面を充実していきます。

 ―具体的には?

 アティックではポップアップショップなどで常に新しいことをして、パークではこれまで開催した「YORU(夜)れんが」など新しいイベントを打ち出します。舞鶴の山の幸を発信する「ファーマーズマーケット」などを検討しています。

夜間のにぎわい創出を目指して開催したイベント「YORUれんが」

 ―展望をお聞かせください。

 年間の来場者目標を150万人としていますが、単に達成するだけでは意味がないと思っています。旧海軍が建設し市民と行政が知恵を絞りながら一体となって保存活用に取り組んだことで今があります。これだけの歴史と保存活用にかかわった先輩たちの思いを尊重した上で、様々な活用を模索していきたいです。舞鶴全体の活性化を視野に入れながら、今後も皆さんと一緒になって取り組めたらと思っています。

舞鶴赤れんがパークホームページ

atickホームページ

Share

カテゴリ一覧に戻る