水と自然、純朴な科学が育む丹後コシヒカリ

まちと文化

水と自然、純朴な科学が育む丹後コシヒカリ

決して「米づくりがしやすい土地」とまでは言えない、京都府北部・丹後地方。それなのに、当地で作られる「丹後コシヒカリ」はなぜ高い評価を得ることができたのでしょうか。

丹後コシヒカリは、日本穀物検定協会による米の食味ランキングで最高ランクの「特A」を、西日本最多の通算12回獲得した実績のあるお米です。

誰もが知るおいしい米の品種「コシヒカリ」の特徴は、食べた時の甘み、旨み、粘り。日本の食事によく合う、おいしいお米の判断基準をバランスよく満たした品種です。その中でも丹後コシヒカリは、味のあるお米が多いのが特徴。お弁当やおにぎりなどにした際に「冷めても美味しい」と言われることが多いお米です。

しかし、実は丹後は「米づくりがしやすい土地」とは言い難いのです。広い平野がなく、山間部が多いなど、米づくりにとっては効率がいい土地とは言えません。

それなのに、なぜ丹後コシヒカリは評価していただけたのか…実は、丹後の米農家が思う理由が2つあります。1つは「水」、もう一つが「人」に関することでした。

シャケの遡上、ブナ林。良い水が豊富な丹後

シャケの遡上、ブナ林。良い水が豊富な丹後

丹後は山・川・海といった自然環境の根本となる地形がコンパクトにまとまっていることが特徴で、これら自然の間を縫うように人々が生活する町があります。このため、町は豊富で良質な水に恵まれ、大量の水を必要とする仕事を支えています。丹後・与謝野町を流れる野田川にはシャケが遡上し、田にはコウノトリが飛来。京丹後の山にはブナ林が広がったりと、水の美しさを物語っています。

丹後地方は、水が豊富。これは多くの農家が実感しているところです。そして農家だけでなく、水が風味を大きく左右する日本酒の世界、丹後シルクを使った織物の世界でも、たくさんの水に支えられてきました。

さらに、丹後地方の「うらにし」と呼ばれる、雨が多い気候。その水を蓄える山々が町のすぐそばにあるから、いつでも水が豊富にあるのです。水田でつくられる稲は、水で育つといっても過言ではありません。全国的に水不足の年であっても、丹後では極端に水不足に悩まされることなく、豊富な水の恩恵を受けてきました。ここに、気温差の激しい気候もプラスに働き、丹後の米づくりは発達してきました。

そして、水ともう1つ、忘れてはならないのが丹後の「人」の存在。ここでは常に研究を重ね、懸命に米作りに励んでいる2組の若手農家に触れてみたいと思います。

データに基づく自然との共生「米農家 城下」

データに基づく自然との共生「米農家 城下」

京丹後市網野町にて、米づくり一本で農業を営む「米農家 城下」の7代目、城下さん。米づくりは、大学のゼミで稲の研究をしていたお父様からしっかり習い、ご自身は農家経営を学びました。現在は独自に学び知識を更新しながらも、感覚に頼りすぎない、丁寧なデータ分析に基づいた米づくりを展開しています。

城下さんから、興味深い話をお聞きしました。
「最近は天気を読むことに興味を持っています。気象庁や世界のデータも観ることができるので、3日くらいの天気は読めるんです。例えば、台風などの時はフェーン現象で、乾いた熱風があたるようになるんですが、それを予測して田んぼに水をはってあげるとか。水は一気に入れたりできないので、事前に予測して入れるんです。」
農家は自然との戦い…とよく耳にしますが、城下さんの場合、戦いというよりも、いかに自然と共生していくかに知恵を絞っているように感じます。

「単純に、お米というものが美味しかった」

「単純に、お米というものが美味しかった」

そんな城下さんが家業を継いだのは21歳。若くして農業を継いだ理由は、意外にも「単純に、お米というものが美味しかった。」という素朴な理由でした。

城下さんは大学生の頃、外食中心の一人暮らしをする中で「お店が閉まった時間だと、実家から送られていたお米を食べていた」と言います。当時はお米を押入れで保存、時には40度を超えるような保存状態で、おかずは塩昆布くらいなのに、それでもお米がおいしかった。大学卒業の頃に就職氷河期でもあり、家業が光ってみえた、と言います。

こんな体験を通じ、米づくりに向き合うことにした城下さん。米づくりは「体よりも、こころが健康になる。」とのこと。ゆっくりと稲が育つのを眺め、成果が現れてくる。さぼったところは、さぼったね、という結果が出るし、やったらやっただけのことが返ってくる、と言います。

どの仕事でもそうかもしれませんが、農業というものは生き方や価値感がより色濃く現れる仕事なのかもしれません。

地道なデータ収集がお米の評価につながった

地道なデータ収集がお米の評価につながった

そんな城下さんも、やはり自然というものを操れない大変さは日々感じています。

「今年でいうと、8月まで梅雨が続いたような天候は、これまでありませんでした。実際に現物(稲)を見たり、データを見たりしながら、作業を調整しています。ほわっとした曖昧なやり方ではなく、なるべくデータを見ながら。」

例えば、葉っぱの色を測定する機器を使って肥料の具合を測ったり、水田の水に棒を立てて印をつけ、水の減り具合で根っこの元気具合を考えたり。2017年頃から、全部測ってやってみているという城下さん。「根性だめしみたい(笑)」と話します。データといえど、その過程は地道なもの。最終的には、人の手によるものということですね。

城下さんはお米のコンクールで毎年入賞する実力派ですが、データをとるようになってから、その順位も上がっているようです。

「地味に、人柄だと思う」おいしいお米の秘訣

「地味に、人柄だと思う」おいしいお米の秘訣

城下さんに、おいしいお米づくりの秘訣を聞いてみました。すると、「地味に、人柄だと思う。」とのこと。
丹後の純朴な人がつくっているから、真面目な味がする。作物は素直なので、やったらやっただけの成果が返ってくる、と話します。

丹後は比較的涼しい地域と言えど、夏場の気温は38℃前後になることもあります。例えばその暑い時期に、妥協せずに水をはりにいけるかどうか。城下さんは「人間が生活でしんどいな、と思うものは、稲もしんどいだろう」と話します。これは一例ですが、人の手をかけてできることをする、それはつまり、人柄が米の味に出るということにほかなりません。

「ここで生まれて、家が農家だったのと、母が栄養士をしていて、食べ物で大きくなりました。なので食を通じて地域に貢献したいと思っています。」

データに基づいた農家さんの背景には、地域や食に対する愛情がありました。

農業はカッコいい。「㈱AGRIST アグリスト」

農業はカッコいい。「㈱AGRIST アグリスト」

次にご紹介するのは、2020年に2社が合併し、大型農家となった与謝野町の農業法人「㈱AGRIST アグリスト」です。地域の農地を守っていきたい、そして農業という職業を若い世代の人にも「カッコいい」と思ってもらいたい。そんな思いで、若き二人がタッグを組みました。

アグリストの農業のスタイルは、昔ながらの作業を忠実にやる、ということ。してもしなくても米は育つ、そんな作業であっても、実行することによって食味が向上したり、生産量がアップしたりするそう。

例えば「穂肥」という作業。稲穂が出る頃に肥料をやる作業ですが、これは機械を使うことができず、担いで田んぼの中に入らなければなりません。「しなくても、一発肥料とかで栽培はできるんですけど…」と太田さん。この地道な作業が品質向上につながるといいます。

異常気象への地道な対策

異常気象への地道な対策

一方、アグリストの二人もまた、自然環境の変化に対応する難しさを感じています。「例年通りにはいかないですね。ここ数年の高温とか異常気象にどう対応していくか?対策はいろいろしていますけど。大変ではあります。」と話します。

有機資材の導入や土作りに力を入れたり、田んぼを乾かすのに力を入れたりと、様々な対策をしているとのこと。田んぼを乾かすのは作業効率のアップに重要で、このことで適期作業ができるようになるそうです。

ところが「丹後の土地は、湿田ばかりで乾きづらいんです。」と話します。
農家としての効率性を求めるのなら、福井県や滋賀県のほうが条件がいい。丹後は前述の通り、平野も少なく、山間部などは作業の大変さや獣害などに悩まされる農地も多くあります。作業効率がよくない、ということは、美味しい米につなげるための作業、1つ1つが大変になるということです。

「農地を守っていく。それだけかな。」

「農地を守っていく。それだけかな。」

そのような環境の中でも妥協せず、やっていける理由は「生まれ育った町の農地を守っていく。それだけかな。」と話します。

普段の農作業の中で道に落ちた泥をスコップで拾い、農地周辺まできれいにしようと動き出したのも、彼らが最初でした。その理由を聞くと「道が汚れているのは気分が良くないので。人の農地を借りてやっているので、地主さんにとっても気持ち良い仕事がしたい。」とのこと。

ちなみに、農地を守る意味には、意外な一面もあります。丹後など山が多い地域では、雨がたくさん降った際に町に大量の水が流れ込みます。この際、実は農地がダムの役割を果たし、町が洪水になるのを防いでいるのです。

米づくりは、ただ米ができればいいというわけではない。農地を守る、地域を守る。様々な角度から、人の暮らしを守っているのが、米づくりなのです。

世代を越えた4人のプロ。こだわり4つ。

世代を越えた4人のプロ。こだわり4つ。

「大規模やから、ろくなもん作っていない、とは思われたくない」と話す太田さん。食べるものだから、中途半端には作れない、という精神で、農薬も極力少なく。有機JASの認定を受けたお米も栽培しています。大規模だから、品質を落としてコストを下げて…という考え方ではなく、「いいものを作ろう」という意識が、最初からあったそうです。

その背景には、先代の姿がありました。太田さん、成毛さん、それぞれのお父さんも、やはりこだわって米づくりに励んできた人でした。今では「こだわりが4つある」と言います。お二人のお父さんと、その息子さん二人。米づくりのプロが4名いる会社だから、「こだわりが4つ」。

最近では野菜部門を担当する若手も入社し、ますます活気あふれる農家になりそうです。

自然 ✕ 純朴な心。丹後コシヒカリ。

実はここ丹後は、米作り発祥の地とも云われています。
伊勢神宮外宮にお祀りされている衣食住の守護神、豊受大御神は、伊勢に鎮座された天照大神のお食事を司る神として、丹後から招かれたと言われています。その丹後には、「月の輪田」という、豊受大御神が初めて田植えをされたと伝えられている、三日月の形をした伝説の田んぼが残っています。遠く離れた丹後の地から呼び寄せるほど、豊受大御神、そして丹後の食が重要だったということでしょうか。
そんな豊かな食を育む丹後は、現代の米づくりにおいて大規模な生産量は見込めないものの、質の面では恵まれた環境があると言えるでしょう。

しかし、その自然環境を活かすのも、人の手です。米にとって良い作業を、妥協せず、手を抜かずやるということ。その作業をやるか、やらないか・・・ここはまさに、人柄が米の味に出るところだと言えるのではないでしょうか。

豊かで良質な水と、自然環境。その中で、妥協しない、純朴な心を持った人たちが米づくりにあたると、美味しい米ができる。丹後コシヒカリは、こうしてブランドとして育ってきたのかもしれません。

【新米】京都丹後地方で栽培したお米!丹後産コシヒカリはコチラ

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