コトとヒトのまちづくり

まちと文化

コトとヒトのまちづくり

2020年10月から12月までの3ヶ月間で開催された「ローカルベンチャーカレッジinタンゴ」。
「丹後地域資源を生かし、事業を創る」と銘打たれたこのプログラム。これからのまちづくりを考える上でとても興味深い方向性を示してくれました。

熱意とアイデアで地域の未来を!

熱意とアイデアで地域の未来を!

これは地域で事業を行いたいという想いを持った大学生や若手社会人を対象に実施したプログラムで、参加者それぞれの事業アイデアを形にしていくというものです。
参加者は、月に2回ほどオンラインでの講義受講やピッチ(短いプレゼンテーション)を行います。

丹後地域やその他の地方で活動する若手起業家を講師として招き、自分のアイデアを何度も講師の前で発表し、アドバイスをもらうことで、参加者は事業アイデアを具体的にしていきます。

そうしてブラッシュアップした事業アイデアを、丹後地域の事業者などから成る「応援団」の前で発表し、丹後地域で実現するための協力者を集めます。
このように、オンラインとオフラインをうまく使い分けて、「地域で何かしたい」という若者を応援するプログラムが「ローカルベンチャーカレッジin丹後」なのです。

丹後に縁のある人、これから関わろうとしている人など、記念すべき第一回目となった2020年度は7名の若者が京都市内や東京都内から集まりました。

10月のスタート時点では参加者たちは漠然と「何かしたい」というレベルでした。しかし、講師の話を聴き、自身のアイデアのピッチを3ヶ月間繰り返す中で、ぼんやりとしていたアイデアが研ぎ澄まされていき、少しずつではありますが、「自分の力でやるぞ」という想いが芽生えてきました。
自ら地域の事業者に話しを聞きに行ったり、小さなことから始めたりする人も現れ、悩みながらも前に進み続けることで、本気で事業に取り組もうという覚悟が育っていきました。

12月には応援団15名の前で参加者によるプレゼンテーションを実施。3ヶ月間かけて考えてきた事業アイデアを丹後地域の事業者に発表し、協力やアドバイスを求めるマッチングの機会を設けました。

最終的に7つの事業プランが生まれ、今も実現に向けて動き続けているものもあります。例えば、「地元の食材をサブスクリプション(定期便サービス)で売る」というアイデアは、実際に農家さんとの連携が進んでいるなど、動き出しが楽しみな実例も生まれています。
やる気のある若者と応援してくれる地域の方が出会うことにより、新しい何かが起こります。

これからもそんな化学変化が生まれていくような兆しとなりました。

地域の課題に向き合う中で

このプログラムを手掛けたのが与謝野町にあるローカルフラッグ株式会社。
代表取締役社長は濱田 祐太さん。1996年生まれ、与謝野町出身。
彼が2019年大学4回生の時に起業した新しい会社です。

ローカルフラッグが今、展開している事業としては2つの大きな柱があり、一つはメディアなどでも大きく取り上げられている与謝野町産のホップ栽培も含めたクラフトビール事業。

そしてもう一つが地域プロデュース事業で前述のプログラムのように大学生や若者の起業、事業継承を支援するといった人材育成に加え、地域外の人を呼び込むことを目的とした副業兼業のマッチングや移住定住促進などに取り組んでいます。

生まれ育った町をなんとかしたい

濵田さんによれば、起業の当初はこのうち地域プロデュース事業だけを考えていたそうです。というのも「生まれ育った町をなんとかしたい」というのがモチベーションの原点であったから。
それは、高校生の時に聞いた周囲の大人の「この町には若い奴がおらんからあかんわ」という一言がきっかけとなりました。

それと同時にポジティブに活動する大人たちに出会ったのもこの時。地域外に住んでいながら地元のことを真剣に考え、取り組んでいる人たちもいて、自分もそういう人になりたいと思ったといいます。

「思えば運が良かった、いろんな人に高校生で出会えてよかった。この時期に誰に出会えるかが大事なこと」

そして進学後は、高校生で考えた「地域づくり」に取り組みたいという思いを胸に、政治家の事務所でのインターンシップ、いろいろな地方にフィールドワークに行くという活動をされました。
その中で、地元にはビジネスで町づくりをする会社が足りていない、と実感したことで思いが具体化し、地元に帰って起業することにつながります。

大切なのは「費用を自分で生み出すこと」

濱田さんは、ローカルフラッグを立ち上げる前、大学2回生の頃から地方の企業に大学生(インターン生)を紹介する事業を始めました。この事業により得た収入によって地元と行き来する費用を賄う事ができて、「月に4日は丹後に帰っていた」そうです。

この経験から彼が実感したのは、「交通費などのかかる費用を自分で生み出すこと」で前向きで実践的な起業意識を持つ事ができるということ。また頻繁に地元と行き来する中で「地元の実情を肌で感じること」ができたことも、その後の自らの起業に向けた考えの基礎になったといいます。

実は、この思いが冒頭で取り上げたローカルベンチャーカレッジに繋がっています。「まずは地元に通う交通費を自分で賄うことからスタートし、継続的に地域に通うことで、様々な関わりが生まれて、地域の課題が見えてきてやれることも増えていきます。最終的にUターンするなりその領域で事業を創るという出口が見えてくるということになるのです」と濱田さん。

「いきなり創業起業となると高くなるハードルもプロジェクトベースでとらえることで取り組みやすくなります。また、起業する人が増えることにより、別の課題が生まれてきた時に横のつながりで解決するきっかけになれば良いとも考えていて、“実は自分が起業する時にあったらよかったというもの”をつくっているんです」といいます。

地域の課題って何か?

濱田さんは、地域プロデュース事業を進める中で次のような地域の課題に直面します。

・地域の産業が衰退していっていること
・若い人が働きたいと思える仕事がないこと
・新たな稼げる事業がないなど、町が収益構造を作れていないこと

当初、濱田さんは地方に来ようとする人の支援をすることや、実際に起業を目指して来た人を育成することがまず大事だと考えていました。
しかし次第に、本当は自分たちがしっかりと事業を創る、そういった姿を見せる、地域に良い影響を与える会社になっていく必要があるとの考えに変わっていったそうです。

そして地域資源を生かして何を事業に結び付けていくかを考えるなかで、ホップと牡蠣殻を使ったクラフトビール事業を手掛けていくことになりました。

雇用が見方を変えるきっかけに

ローカルフラッグの社員の一人、梅田 優希(まさき)さん(京丹後市出身)は学生時代は野球に打ち込み、将来は野球をしてお金を稼ぎたいと考えていましたが、大学3回生の時に限界を感じ就職活動に転換。さらに就職活動でも挫折を経験。そんな時、友達に価値観を変えてはどうかと誘われヒッチハイクの旅に出た梅田さん。道中、10数組の方に乗せてもらいました。
「そこで出会った方々は自分よりも大きな悩みを抱えている方や、それを乗り越えて今に至っている方がいて僕の悩みってとてもちっぽけなんだと感じ、僕もまだチャレンジできるかもしれない」と勇気づけられたといいます。

「おそらく学生の中には自分と同じように今後のキャリアや将来について悩みを抱えている学生が多い。そんな悩みを聴いて考えることのできる場所を作りたい、ヒッチハイクした車の中で思いを交わした空間のようなゲストハウスを作ろう」と思い立ったのだそうです。せっかくつくるなら生まれ育った丹後地域が良いとも。

ある時参加したイベントで、丹後地域で自分のつくりたいゲストハウスをプレゼン。そのイベントの参加者の中にローカルフラッグを起業したばかりの濱田さんがいました。やり取りの中で経験や知識も豊富な濱田さんに感服してローカルフラッグでのインターンシップを申し出たことが入社のきっかけになりました。

入社後は仕事の内容を周りからはなかなか理解してもらえない時期があったそうですが、クラフトビール事業などが新聞で取り上げられるようになり、少しずつ理解してもらえるようになったのだそうです。さらに地域の人からも応援の声をかけてもらえるようになりました。「その間には葛藤もあり、自分も起業しないとダメなのかと思うこともありました。でも仕事をしてく中で起業はゴールではなく、手段であることがわかり、今自分が出来ることに対して精一杯向き合おうと思えるようになりました」といいます。

「正直採用することには勇気がいった」と濱田さん。しかし一人採用できたことでさらに増やしていける自信になり、会社に人が増えるというインパクトと同時に雇用したことで周りの方にも本気度が伝わり、自分たちのスタンスが示せるようになった事が大きなことなのだといいます。

町のフラッグシップになる会社になっていきたい

町のフラッグシップになる会社になっていきたい

「『あの会社があるからあの町いいよね、あの会社で働きたい』と言われるような町の代表格、例えるなら地域の旗振り役になりたいと考えていて、そのためにも実業を伸ばす事が課題だと考えています。もちろんコーディネーター的なことはやり続けますが、いかに地域資源を掘り出して信じてやり続けていくかということを大切にしていきたいですね。」

「現在取り組んでいるクラフトビール事業を含めて数億円規模の売り上げを生めば雇用を創出して町へも投資していくことが可能になります。やはりビールについてはメーカーを目指していきたい。そしてビール以外にもいろんなものをつくってインターネットで販売し、多くの方に届けていきたいと思っています。」

そのほか起業人材への資金調達の応援など、町の発展と自社の成長をしっかり見据えビジョンを語る濱田さん。彼らの取り組みが旗印となり、将来多くの起業家が生まれることだろう。

本気で取り組む人たちに向けて

海の京都ローカルベンチャースクール

次のステップとして、舞鶴と福知山の建設関係の社長とローカルベンチャー促進の会社を作るべく計画しています。2021年6月開講予定で15人くらいの起業家と後継者を集めて1年間通してお互いビジネスモデルを磨きあっていく、事業を伸ばしていくことを応援する取り組みをしようと。野心を持って取り組んでいる人を増やしていきたいと考え、別会社として2021年3月創業を予定しています。

株式会社ローカルフラッグ

株式会社ローカルフラッグ

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