旧軍港都市への誘い 舞鶴鎮守府開庁120年

まちと文化

旧軍港都市への誘い 舞鶴鎮守府開庁120年

 2021年、京都舞鶴を象徴する赤れんが倉庫群に「#MAIZURU」の文字をかたどった大きなモニュメントが登場した。この地には今から120年前、旧海軍が日本海側唯一の鎮守府として「舞鶴鎮守府」を設置。開庁120年の記念碑として設置されたこのモニュメントにはカメラを手にした観光客や市民が集まり、SNSを通じて世界に発信。軍港都市を経て工業、商業、観光のまちへと発展した舞鶴へと誘(いざな)っている。

海軍の拠点 1901年に開庁

海軍の拠点 1901年に開庁
舞鶴市余部下に建設された舞鶴鎮守府の庁舎(当時の絵はがきより)

 鎮守府とは、軍港に置かれた海軍の拠点のこと。
 
 明治時代、旧海軍は日本沿岸の海を5つに区分けし、そのうちの横須賀、呉、佐世保、舞鶴に鎮守府を設置した。鎮守府では各海軍区の防備、艦艇の建造と修理、兵器の製造、海軍病院、軍港水道などの施設運営、監督を行った。その中で舞鶴鎮守府は日本海側で唯一の拠点として1901(明治34)年、10月1日に開庁した。

入り組んだ舞鶴湾。五老ケ岳から望む

 
 日本海側の中央に位置し、深く入り組んだ天然の良港で、港の背後は高く険しい山があることが決め手となり、舞鶴が選ばれたという。湾口の狭さや山からの監視のしやすさが、海軍の守りの要となる鎮守府には必要だった。

まちが繁栄 通りは軍艦名に

まちが繁栄 通りは軍艦名に
現在の岸壁には海上自衛隊のイージス艦が係留する

 
 鎮守府が設置されると、中舞鶴から東舞鶴にかけての海沿いの村々には、当時の最先端の技術や設備が投入された。重工業のまちとして栄える礎となった造船所のほか、巨大な艦艇を係留する岸壁、兵器などの製造を担う工場、弾薬などを保管する赤れんが倉庫などが次々と建設されていった。

碁盤の目のように整備された東舞鶴のまち

 東舞鶴の市街地は繁栄した。資材などを運ぶトンネルや鉄道が急ピッチで敷設され、多くの軍人や軍属を受け入れるため、まちは碁盤の目の街路で区画された。そして通りには「八島」や「敷島」など当時の軍艦の名前がつけられ、多くの商店が建ち並んだ。

武器庫の赤れんが倉庫が観光施設に

武器庫の赤れんが倉庫が観光施設に
観光交流施設となった赤れんが倉庫

 舞鶴のシンボルの一つ、赤れんが倉庫。鎮守府の開庁以降、明治から大正にかけて建設されたもので、武器や弾薬を保管する倉庫だった。特に北吸地区の赤れんが倉庫群は、全12棟のうち8棟が国の重要文化財に指定されており、ほかの旧海軍施設とともに文化庁の日本遺産にも認定。その歴史的価値は高いとされる。
 舞鶴市によると、35年ほど前には取り壊す案があったが、倉庫を核にまちづくりを進める市民グループの活動をきっかけに保存・活用が進む。そして2012年には博物館やホールなどを備えた「舞鶴赤れんがパーク」としてオープン。近畿北部を代表する観光交流施設に生まれ変わった。

赤れんがパークで開催中の企画展

 市民の手で後世に引き継がれた赤れんが倉庫群では現在、鎮守府開庁120年を記念し、前述のテキストモニュメントが設置され、ライトアップも実施。来場者がSNSなどを通じて世界に発信している。
 イベントなども開かれ、3号棟(まいづる智恵蔵)では舞鶴の古地図を集めた企画展(入場無料、11月29日まで)も開催している。古き良き時代の変化を伝える貴重な古地図を多数、展示しており、来場者の関心を集めている。

節目の年を盛り上げ 官民で様々な取り組み

節目の年を盛り上げ 官民で様々な取り組み
商店街にかかる記念フラッグ

 鎮守府開庁120年の節目の年を盛り上げ、まちを活気づけようと、舞鶴市内では官民による様々な取り組みが生まれている。

 市は東舞鶴の4商店街などに200枚の記念フラッグを掲揚。更に、市民や地元飲食店らと組んで旧海軍に由来する家庭料理「肉じゃが」をアレンジした新メニューを開発して各店で提供するプロジェクトも始めた。

飲食店が海軍由来の肉じゃがメニュー

飲食店が海軍由来の肉じゃがメニュー
ホテルベルマーレが考案した「肉じゃがのアンクルート ベルマーレスタイル」(左)と「舞鶴やさいの肉じゃが煮こごり」

 肉じゃがは、舞鶴海軍鎮守府の初代司令長官・東郷平八郎が英国で食べたシチューの味が忘れられず、日本で再現させた「甘煮」がルーツで舞鶴は「肉じゃが発祥の地」とされる。
 市は、この肉じゃがをアレンジした料理を市民から募集。そのアイデアを基に地元のレストランなど6店がピザやシューマイなどの7品を開発。店のメニューに載せた。

肉じゃが新メニューをPRする小西料理長

 舞鶴市浜のホテルベルマーレでは肉じゃがのコロッケから着想した「肉じゃがのアンクルート ベルマーレスタイル」を考案。コロッケの衣の替わりにパイ生地とクレープ生地を使用。2枚の生地で肉じゃがを包み焼きにしたフレンチに由来する料理を完成させた。

 更に季節の野菜と肉じゃがをゼラチンで固めた「舞鶴やさいの肉じゃが煮こごり」も。自慢の地元野菜と食感が特徴の「冷たい肉じゃが」だ。

 小西伊知郎料理長は「食事も舞鶴に訪れる楽しみの一つ。ツアー客を始め、舞鶴にちなんだパーティーなどでも提供していきたい」と話す。ホテルではいずれのメニューもランチタイムに提供している。

大手コンビニが海軍カレーパン

大手コンビニが海軍カレーパン
舞鶴海軍カレーパン

 一方、舞鶴観光協会は大手コンビニのローソンと鎮守府開庁120周年を記念した「舞鶴海軍カレーパン」を開発。今秋、近畿のローソン店舗で販売された。
 パンには100年以上前に海軍舞鶴海兵団が発行した海軍の料理教科書「海軍割烹術参考書」に記載されているレシピを参考にしたカレールーを使用。約2400店のローソンで販売され、旧海軍のまち舞鶴の知名度アップに一役買った。

EVISUとのコラボジーンズも登場

EVISUとのコラボジーンズも登場
舞鶴鎮守府開庁120年を記念した日本遺産ジーンズ。モデルは舞鶴出身のフリースタイルフットボール世界一デュオ、ラ・クラシックの守島裕二さん(左)と山本佳史さん

 節目の年には「舞鶴鎮守府」の文字を刻んだブランドジーンズも登場した。

 舞鶴市引土の衣料品店「MITOMAN(ミトマン)」は今年5月、日本を代表するジーンズブランド「EVISU(エヴィス)」とコラボし、舞鶴鎮守府開庁120年を記念した「日本遺産ジーンズ」を発売。希少なエヴィスジーンズとしてデニムファンからも話題を呼んだ。

 革パッチにはいかりや桜、舞鶴の鶴をデザインしたロゴと舞鶴鎮守府の文字を刻印。後ろのポケットには、おなじみのエヴィスのカモメマークと、日本遺産のロゴの刺繍をあしらった。ポケットの裏地には舞鶴市余部下にあった舞鶴鎮守府庁舎の絵をプリント。細部にまでこだわった。

服を通じて舞鶴の魅力を

服を通じて舞鶴の魅力を
「舞鶴の魅力を伝えたい」と話すミトマンの山下さん

 地元の地域商社のメンバーや市関係者らも商品化に携わり、ともにブランディングも進め、この秋には追加生産が決定。ミトマンの山下洋平さんは「洋服で喜んでもらおうと思ったのがきっかけで、たくさんの人に支えられ、地元の歴史も学びながら開発を進めた。発売以来、お客さんと話す機会も多くなり、舞鶴のことを伝えることに喜びを感じている。これからも多くの人に舞鶴の歴史や魅力を伝えたい」と話している。

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