綾部の隠れ里で受け継がれた上質の和紙「黒谷和紙」

まちと文化

綾部の隠れ里で受け継がれた上質の和紙「黒谷和紙」

 厳しい冬の寒さと山里を流れる清流が、上質の和紙を育んできた。京都府綾部市の北部に位置する黒谷地区は、800年以上にわたり「黒谷和紙」の伝統的な製法が受け継がれる。今では全国でも数少なくなった手すき和紙の産地だ。需要の低迷や後継者不足などの問題を抱えながらも、新たな商品の開発などで活路を見いだそうとしている。

始まりは平家の隠れ里

始まりは平家の隠れ里

 黒谷和紙の歴史は古い。1200年ごろ、平家の落ち武者が都から逃れ、黒谷の地に隠れ里をつくったのが始まりだ。

 黒谷は、地名が示す通り谷間にある集落。日照時間が短く、農作物を作るには不向きだが、山には和紙の原料となるコウゾが自生し、和紙作りに必要な冷たく清らかな水も黒谷川で確保できる。紙作りに適したこの地で、人々の生活の糧となってきたのが黒谷和紙だった。

 子孫に残す仕事として細々と始まった紙作りは、江戸時代に大きな発展を遂げる。数々の奨励策がとられ、京の都に近いこともあって京呉服に関連した値札や渋紙をはじめ、傘紙や障子紙、ふすま紙などが数多く作られるようになった。更に1895(明治28)年には土佐の紙すき技術を採り入れ、大判紙や厚紙も作れるようになったことで生産量は伸びた。

政府が「日本一強い紙」に認める

 大正期には当時の政府に「日本一強い紙」として認められ、携帯食の乾パンを入れる袋に重用された。大正から昭和初期にかけては、綾部で創業したグンゼによって養蚕業が発展したことに伴い、繭袋や蚕卵紙、絹糸の包装紙を生産した。

全国に先駆け加工品を展開

全国に先駆け加工品を展開

 第2次世界大戦後、洋紙の影響で和紙の需要は低迷。職人の不足もあり、全国の和紙産地では手すきから効率的な機械すきへの転換が進んだ。各地で伝統の製法が途絶えていったが、黒谷は守り続け、和紙産地としての存在感を高めた。昭和40年代からは全国の産地に先駆け、和紙を加工した商品の展開に着手。今も販売が続く名刺入れなどを開発し、時代の変化への対応を図った。

国内外で高まる評価

 1983年に「黒谷和紙」が京都府の無形文化財に指定され、2017年には地域団体商標に登録された。黒谷で昔のままの姿を残し、地域ブランドとしての価値が認められている。

 「黒谷和紙」の定義は、「綾部市黒谷町と、その周辺地域で生産される和紙」。高い強度が特長で、長期の保存にも耐えられる。京都市の世界遺産、二条城の修復に使われたほか、フランスのルーブル美術館は修復用紙として使用。ヨーロッパでは「クロタニ」と呼ばれ、高い評価を得ている。また、2009年に皇室が海外に送ったクリスマスカードは黒谷和紙だった。

昔ながらの手作業

 黒谷和紙は昔ながらの製法で、原料のコウゾの収穫から加工まで全ての工程を手作業で行う。

 コウゾは1年で3㍍もの長さに成長する。冬になって葉が落ちれば、鎌やのこぎりで刈り取る。

 刈り取ったコウゾは、こしき(たるのような入れ物)に入れて3時間ほど蒸す。

 蒸しあがったコウゾは一本ずつ皮をはぎ、「かごそろえ」という工程で、はいだ皮の表面の皮と傷を包丁で取り除いて白皮にする。

 白皮となったコウゾはアルカリ性の熱湯で1時間半くらい煮る。

 軟らかく煮あがったあとは、水にさらしてアクを取りながら残った傷やごみを除去する「みだし」の作業。

 みだしが終われば餅をつくように約1時間たたいてほぐし、細かい繊維状の材料「紙素(しそ)」ができる。

ようやく紙すき

ようやく紙すき

 ここからが、ようやく紙すきの作業。すき舟に水と紙素、ネリ(トロロアオイの根から作る粘液)を入れ、かき混ぜる。簀桁(すげた)ですくって揺らせば水が落ち、残った繊維が絡まり合って紙になる。

 すいた紙は1枚ずつ板に張り付けて乾かし、染めや裁断を経て完成する。

黒谷の再興へ商品開発

 黒谷はかつて「紙すきの村」と言われ、最盛期には和紙を作る職人が60人以上もいたが、生産量の落ち込みとともに今では9人にまで減った。だが、黒谷を再び活性化させようと、黒谷和紙協同組合は積極的に新商品の開発に取り組んでいる。

「黒谷和紙」公式サイト

丹後ちりめんの技術で織物に

丹後ちりめんの技術で織物に

 その一つが、黒谷和紙で作った糸と絹糸で織った「黒谷綜布(くろたにそうふ)」。しなやかさや強さ、軽さ、調湿など黒谷和紙の特性を持った生地で、300年以上の歴史を持つ京都府丹後地域の織物「丹後ちりめん」の技術を生かして2016年に生まれた。二つの伝統産業の技が合わさって生まれた、「海の京都」(京都府北部)ならではの素材だ。

 京都府立大学の教授や丹後の織物業と研究を重ね、完成させた。絹糸をたて糸とし、細長く裁断して糸状に加工した和紙をよこ糸とする。手すき和紙を紡いだ糸を使うことで生地の表面には「ふし」という凸部分が不規則に生じ、独特の風合いとなる。

 これまで高級生地として販売してきたが、今年1月には一般消費者向けにストールを商品化。草木染めを含む全7色を3万3千円(税込み)から販売する。

コロナ禍で抗菌加工

コロナ禍で抗菌加工

 新型コロナウイルスの感染が広がってからは、ウィズコロナの時代を見据え、抗菌加工を施した和紙を使った障子やふすまなどを開発。以前から展開していた小物類にも抗菌加工の和紙を使用し、付加価値を高めて新商品とした。

 着物に抗菌や消臭、撥水(はっすい)の効果を付加する「パールトーン加工」を活用。加工後も風合いは変わらず、コロナ禍のニーズに適合した黒谷和紙が生まれた。

 昨年11月には、開発した表具を設置した展示場を黒谷にオープン。事前に予約すれば見学できる。

綾部市内で販売や体験

綾部市内で販売や体験
黒谷和紙会館

 黒谷和紙の関連商品は「黒谷和紙会館」(綾部市黒谷町)や「あやべ特産館」(同市青野町)などで販売している。

 また、旧口上林小学校跡(綾部市十倉名畑町)で2005年にオープンした「黒谷和紙工芸の里」では、紙すき体験(事前予約制)もできる。

これまでと違う用途を

 黒谷和紙協同組合の山城睦子専務理事は「昔は人々にとって身近なものだった和紙が、今では遠い存在になった。和紙の良さを知ってもらえるように、これまでと違った使い方を伝えていきたい」と意欲を見せている。

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