京都府北部7市町の海の京都エリアでは、確かな生産方法や技術でものづくりを行っている事業者が多い。こうした事業者が作る商品は多岐にわたり、キラリと光る独自商品が多いことから、各自治体のふるさと納税の返礼品としても取り扱われている。返礼品として提供されている商品を製造する事業者から、ものづくりのこだわりを聞いた。
キラリと光る独自商品 ~ふるさと納税返礼品のものづくりに迫る①~
まちと文化
完熟トマトで特別なトマトジュース
昼夜の寒暖差が大きい京都丹波地方の福知山市。同市上小田の㈱小林ふぁ~むは、この地に合った独自の農法を生み出し、トマトを作る。量ではなく質を追求することに加え、完熟のものだけを収穫するため遠方への出荷は困難だが、この上質のトマトを手軽に味わってもらおうと商品化したのが「とまとのじゅ~す」。こだわりの完熟トマトだけで作る特別なトマトジュースだ。
福知山で「かなこ農法」を確立
同社社長の小林加奈子さんは2015年、大阪府堺市から祖母の家がある福知山市に「孫ターン」し、夫の伸輔さんとともに農業を始めた。米や野菜を作りながら農家としての方向性を探り、主力の作物としてたどり着いたのがトマト。甘さだけでなく、ほど良い酸味も感じられる昔ながらのトマトを目指し、「かなこ農法」を確立した。
「かなこ農法」は土づくりをしっかりと行い、農薬や化学肥料を使わないのが特長の一つ。動物性や植物性の堆肥(たいひ)に加え、カニ殻などの有機物をブレンドしてトマトの栄養分とする。実が成り始めると水やりの量を最低限に抑えて甘みを引き出し、「トマトが気持ちよく成長できるように」(小林さん)と高さは一般的な栽培方法よりも低い目に制限。「樹上完熟」にこだわり、真っ赤に熟れたトマトだけを収穫する。
全国の人に通年で
一般的に市場に流通するトマトは、崩れたり傷ついたりしにくい完熟前のもの。同社のトマトは完熟であるため遠方には販売しづらく、さらに夏場しか味わうことができなかった。そこで「全国の人に通年で小林ふぁ~むのトマトを楽しんでもらいたい」という思いで着目したのが、トマトジュース。形が悪いため、そのままでは売り物にできないトマトの有効活用にもつながる。
ただ商品開発にあたり、気掛かりなことがあった。「トマトは好きですが、実は市販のトマトジュースは苦手なんです」と小林さん。市販されているトマトジュースには独特のくせがあり、苦手意識を持っていたという。
想像以上の出来栄え
ところが、心配は杞憂に終わる。隣町の与謝野町にある「リフレかやの里」に製造を依頼し、塩や砂糖、水、添加物などは加えず、小林ふぁ~むのトマトだけで作られたジュースの出来栄えは想像以上だった。「これは『トマトジュース』ではなく『トマトのジュース(果汁)』だ」。小林さんが自信を持って売り出せる商品が誕生した。
製造後、蔵で3カ月以上の熟成を経て販売する。寝かせることで酒と同様に角が取れ、まろやかな味わいになるという。
コンテストで大賞
1本(720㍉リットル)が3240円(税込み)とトマトジュースにしては高額だが、食品などのコンテスト「グルメ&ダイニングスタイルショー春2019」のビバレッジ部門で大賞に輝くなど、品質は折り紙付き。都市部の百貨店にも販路を広げている。
希少なプレミアムも
また、1本(同)が1万800円(同)の「ぷれみあむ」もある。ジュース専用に育てたトマトがおいしくなるタイミングを見極め、よりすぐりのものだけを収穫し、その日のうちに加工。年に1~2回しか作ることができない、希少な商品だ。
伝統の絹織物をモダナイズ
300年の歴史を持つ織物「丹後ちりめん」が織られる丹後地域は、国内最大の絹織物産地。地元の織物業が展開するブランド「kuskafabric(クスカファブリック)」は、地域が長年にわたり培ってきた伝統の技術を生かし、絹織物のモダナイズ(現代化)を図っている。特長は手織りであること。代表的な商品の「丹後ジャカードタイ」は、世界的にも珍しい手織りのシルク製ネクタイで、国内外で高い評価を受ける。
「うらにし」が育んだ伝統
「弁当忘れても傘忘れるな」。秋から冬にかけて、湿気を含んだ季節風により天気が不安定になる丹後で言われることだ。この「うらにし」という気候が絹にとってほど良い湿度をもたらし、丹後では絹を扱う技術やノウハウが受け継がれてきたが、和装需要の落ち込みにより産地の代表的な織物である丹後ちりめんの生産量は激減している。
手織りで自社ブランド
与謝野町岩屋のクスカ㈱は1936年の創業時から丹後ちりめんで生計を立ててきた。ところが、70年代以降は多くの同業者と同様に受注量は右肩下がりとなっていた。危機感を抱いた3代目の楠泰彦さんは、大きな決断をする。まず、独自性を出すため、機械織りから手織りへの転換。そして、手織り生地の付加価値を消費者に直接訴求する自社ブランドを展開することだ。
今とは異なる「KUSKA(クスカ)」の名称で2010年にブランドはスタートした。シルクの光沢感や手織りならではの柔らかで立体感のある生地の良さが伝えられるアイテムとして、製品に選んだのはネクタイ。手織りする生地は1人の職人が1日に2~3本分しか織ることができないほどのもので、染色や縫製も職人の手仕事にこだわり、質を追求する。
欧州の高級品に匹敵
国内では百貨店やセレクトショップに販路を広げていった。2019年にはイギリス・ロンドンのロイヤルワラント(王室御用達)認定を受ける名門テーラー(紳士服の仕立業)の商品に採用され、海外での評価も確立。ロンドンでの販売価格はヨーロッパの高級ブランドのネクタイと同等以上であり、評価の高さがうかがえる。
ものづくりの工程も
22年4月、「製品だけでなく、ものづくりの工程も伝えたい」という楠さんの思いを込め、ブランド名をクスカファブリックに改称。ブランドの旗艦店に位置付ける東京の直営店は「帝国ホテルプラザ東京」に移転し、リニューアルオープンした。
ブランドの顔
そんなブランドの顔ともいえる定番商品が「丹後ジャカードタイ」。柄や模様を織りで表現する「ジャカード織り」を手織りで行い、立体的な織り柄を表現する。価格は税込み1万7600円。丹後の伝統をモダナイズした逸品だ。
世界最薄クラスのアルミテーブル
精密機械部品の製造を手掛ける福知山市三和町芦渕のコアマシナリー㈱は、自社技術を活用したアルミニウム製の家具・雑貨ブランド「SOLID HONEYCOMB PRODUCTS(ソリッドハニカムプロダクツ)Design by ATELIER OPA」を展開する。天板の先端の厚さがわずか2㍉という世界最薄のラウンドテーブルを始め、テープカッターなどを商品化して新たな需要の獲得につなげている。
ハニカム形状で強度と軽さ実現
同社はアルミの切削加工とアルマイト処理(アルミの耐食性や耐摩耗性を向上させる表面加工技術)を得意とし、スマホ用の半導体製造装置や各種センサー向けの精密部品を製造。これまでは企業間取引をメインとしてきたが、2016年からは自社技術を生かした一般消費者向けの製品開発にも力を入れてきた。
代表商品ともいえるアルミラウンドテーブル(税込み20万9千円)は、天板の底部をハチの巣のように六角形を組み合わせた「ハニカム形状」に切削して強度と軽さを実現。円形の天板の先端は厚さがわずか2㍉という薄さながら、100㌔の荷重にも耐えられる強度を誇る。
テープカッターも人気
ホルダーにハニカム形状のデザインを取り入れたテープカッター(3万8500円)は、テープを切断する本体のブレード(刃)の刃長を細かい目に加工したことで、切れ味を向上させながら指は切れないという安全な商品に。製品をアルマイト処理して表面の硬度を高め、傷がつきにくくなっている。色は「利休鼠(りきゅうねず)」(緑がかった灰色)や「唐紅花(からくれない)」(濃い紅色)など日本の伝統色7色をラインナップしている。
テープカッターは雑誌にも掲載され、そのおしゃれなデザインは置いているだけでもインテリアになることから、新築祝いなどの贈答用として人気が出始めており、岡本真樹社長は「これからも技術を生かした商品開発を続けていきたい」と話している。
宇宙産業へも広がり
今年2月、宇宙産業の総合的なサービスを展開するSpace BD㈱(東京都)が国内外の研究機関や教育機関、民間企業など10組から提供された対象品を宇宙空間に打ち上げ、国際宇宙ステーションの船外で半年間、宇宙空間にさらしたあと地球に戻す「スペースデリバリープロジェクト」が行われた。
この際に打ち上げられたクライアント企業のロゴ入りアルミプレートの製造を手掛けたのがコアマシナリーで、同社の事業の幅は宇宙産業へも広がりを見せている。