希少な純国産「和がらし」 ~京都・綾部こだわりの生産者

山と生きる

希少な純国産「和がらし」 ~京都・綾部こだわりの生産者

 「からし」って、いったい何でできているの?
 そんな疑問から和がらしの生産を始めた夫婦が京都府北部の綾部市にいる。おでんや豚カツ、納豆などに添えられ、ピリッとした辛さが味にアクセントを加える「からし」は、日本人にとってなじみが深い調味料ながら、原料の生産を海外に頼っているなど意外と知らないことは多い。
 国内でも数少ない和がらし農家として奮闘する2人が作る純国産の和がらしは、食材としても非常に希少だ。そんな2人に和がらし作りのこだわりや魅力を尋ねた。

さいたま市から綾部に移住

さいたま市から綾部に移住
和がらしの生産に取り組む髙山さん夫妻

 「ほどほど屋エイト」の屋号で和がらしの製造販売を手掛けるのは髙山和洋さん、真純さん夫妻。2020年9月にさいたま市から自然豊かな綾部市白道路町(はそうじちょう)に家族で移住し、2人の子どもを育てながら和がらしの生産に取り組んでいる。

 ともに飲食関係の仕事をしていた2人は東京で知り合い、2009年に結婚。自分たちで野菜づくりをしながら飲食店を持つという夢を叶えるため、さいたま市へ移住し、13年9月に「ほどほど屋エイト」という居酒屋を始めた。店では自分たちで栽培したオーガニック野菜や、真純さんの古里である福島県の地酒を提供し、ファンも増えて経営は軌道に乗っていた。

自然豊かな場所で子どもを育てたい

 しかし、自然が少なく、人との交わりも少ない都会での生活に疑問を感じた2人は、「子どもを自然豊かな場所で育てたい」と移住を考えるようになった。そのころ、古里の福知山市へUターンすることになった向かいの住人から「福知山の家の離れに住んで、土地を管理してほしい」と頼まれたのがきっかけで関西方面への移住を検討。福知山周辺の情報を調べると「移住立国」をうたい移住者の受け入れに積極的に取り組んでいる綾部市に興味がわき、20年9月に自分たちが求める生活ができる環境が整った今の場所へ移住した。

からしって、何でできているの?

からしって、何でできているの?
ほどほど屋エイトが製造する粉末の和がらしと練り和がらし

 和がらしの生産は、さいたま市で居酒屋を営んでいたころにさかのぼる。

 ある日、こだわりの素材で豚カツを作ってみようと試みた2人。厳選した豚肉やパン粉、卵、ソースなどをそろえたが、ふと「からしって、何でできているの?」という疑問がわいた。普段から食べている食材ながら、意外と原料や製造法について知らないことが多かったからだ。

 調べてみると、和がらしは「黄からし菜」という植物の種を粉末にし、水を加えて練って作るのだという。からしは弥生時代に中国から日本に伝わり、昔はリウマチなどの薬として使われていた。その後は食用となり、江戸時代には「初ガツオ 銭とからしで 二度涙」「初ガツオ 辛子がなくて 涙かな」といった川柳になるほど、日本の食文化に根付いていた。

 ところが現在、国内で消費されているからしには、ほぼ100%カナダ産の原料が使用されている。高度経済成長期、からしは栽培に手間がかかる割に安価で取引されることから国内での栽培が激減し、カナダの大規模農家が担うようになったのだという。

子どもたちに食文化を残す

子どもたちに食文化を残す
和がらしの原料となる黄からし菜の種

 「昔から当たり前のように食べている食材なのに、生産を外国に頼っているのでは、いつか無くなってしまう。当たり前の食文化を子どもたちの世代に残したい」。そう考えるようになった2人は2017年に黄からし菜の栽培を始め、そのおいしさに魅了されて本格的にからしの生産を行うようになった。

写真上から、黄色の花をつけたからし菜、収穫後の乾燥の様子、脱穀して種を収穫する

 現在は3反(約3000㎡)のほ場で黄からし菜を栽培する。毎年10月ごろに種をまき、翌年の3月下旬から4月初旬には黄色の菜の花が開花。種を付け、ある程度成熟させた段階で収穫したあと、追熟・乾燥・脱穀してゴミなどを取り除き、色彩選別機で未熟な種や黒く変色した種を除去。種を水洗いして再び乾燥させる。

石臼で製粉

石臼で製粉

 ここまででも相当な労力だが、作業はまだ続く。種には約40%の油分が含まれているため、低温圧搾で約30%の油分を取り除いてフレーク状にし、これを石臼で製粉してようやく粉からしが完成する。

こだわりの味、さまざまな料理に

こだわりの味、さまざまな料理に
髙山さんが作る練りがらしはお刺身に合わせてもおいしい

 この粉末を容器に入れ、お湯を少しずつ加えながら好みの硬さになるまで練り、味を落ち着かせるため容器を裏返しにして5分ほど置くと和がらしの完成。水分を加えることで、からし特有の辛みが生まれるのだといい、市販のからしのように鼻にいつまでも残る辛さではなく、バターのようなマイルドなコクと爽やかな辛味が楽しめる。

 ほどほど屋エイトでは、和洋さんの名前にちなみ「和(かず)がらし」の商品名で販売。おでんや豚カツ、納豆だけでなく、蕎麦や刺身などに合わせてもおいしい和がらしは粉末(15㌘で税込み1200円)と、老舗のお酢屋として知られる飯尾醸造(宮津市)の酢を加えた練りがらし(30㌘で1200円)があり、オンラインストアのほか飯尾醸造や向井酒造(伊根町)、ウッディーハウス・リブレ店(舞鶴市)などでも扱っている。

希少な和がらしの油

希少な和がらしの油
搾油の様子

 製造時にしか販売していないが、搾油した際にとれる希少な「和がらしの油」(150㌘で2000円)はからしの風味が残り、サラダにかけたり、炒め物に加えたりとさまざまな味わい方ができるという。

人気のレア食材を安心安全に

 国内で流通するからしの原料は100%近くがカナダ産であるため、純国産の和がらしは「スーパーレア」な食材と言え、希少価値が非常に高い。さらに黄からし菜の栽培からからしの生産までこだわり抜いて手間ひまをかけて作る2人の和がらしは、その味わいから非常に人気が高く、各地のファンに加え、地元や他府県の飲食店からも注文が入る。
 真純さんは「安心安全な食品には、私たちが知らないところで手間ひまがかかっている。安心安全を心掛けた和がらしの生産をとおして、自分の身体を作っている食品について考えるきっかけになった」と話すとともに、和洋さんは「商品をとおして和がらしのおいしさに触れてもらえれば」と願う。
 おいしさはもちろんのこと、食に対する安心安全への思いも2人の和がらしには込められている。

 生産を始めて6年。周りに生産者がいないため栽培は苦労の連続で、「今でも試行錯誤しています」と笑う2人。「子どもたちに日本の食文化を残したい」という思いを胸に、これからも和がらしづくりの挑戦は続く。

ほどほど屋エイトのホームページ

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