自然の息吹が感じられるような、さわやかで心地良い香りが広がる。300種類以上の薬草薬樹が自生する京都府京丹後市で、地元の植物を原料にしたクラフトジンが誕生した。造るのは、同市弥栄町野中の「京丹後舞輪源(まいりんげん)蒸留所」。標高683㍍の太鼓山の山頂近くにあり、豊かな自然に恵まれた環境でオリジナリティを出す。
自然を感じるクラフトジン 「京丹後舞輪源蒸留所」
山と生きる
原料は自生する植物
ジンは蒸留酒の一種で、ハーブやスパイスなどのボタニカルで風味を付ける。「ジントニック」などのカクテルベースとして知られている。
近年は原料や製法にこだわったクラフトジンの人気が高まっており、全国各地に蒸留所が誕生した。それぞれが、その地ならではのボタニカルなどで個性を出している。
舞輪源蒸留所が特長とするのは、ボタニカルの鮮度。蒸留所の周辺に自生する植物を中心に使っており、中には蒸留のわずか30分前に収穫するものもあるほどだ。「フレッシュクラフトジン」と称し、差別化を図っている。
地域資源の活用へ
原料となるボタニカルを育む太鼓山は、日本海に突き出た丹後半島の中央にそびえる。山頂付近はキャンプなどが楽しめる総合レクリエーション施設「京丹後森林公園スイス村」となっており、そのエリア内に舞輪源蒸留所がある。
スイス村は京丹後市の施設。かつてはスキー場もあり、冬にはスキー客でにぎわっていた。近年は音楽が楽しめるアウトドア施設「BEAT CAMP(ビートキャンプ)」の誘致やスノーアクティビティーなどでスキー場跡を活用するほか、地域資源を活用した商品の開発にも取り組む。
こうした商品の一つとして、着目したのがクラフトジンだった。
徐福の伝説、薬草薬樹、長寿
丹後半島には、秦の始皇帝から不老不死の薬を探すよう命じられた徐福がたどり着いたという伝説がある。そして、半島の北端に位置する京丹後市には、300種類以上もの薬草薬樹が自生している。
薬草薬樹が、そこで暮らす人々の健康を支えてきたのだろうか―。京丹後は長寿のまち。人口10万人当たりに占める100歳以上の割合は全国平均の3倍以上。
ジンの歴史をさかのぼると、始まりは薬用酒。「薬草薬樹」や「長寿」といった京丹後の特色につながり、地域の魅力を表現できる。
ボタニカルは太鼓山周辺で調達できる。人里から離れた山頂周辺は雪深く、まるで秘境のように人を寄せ付けない面があり、手つかずの自然が残ってきた。中でも自生するネズの実「ジュニパーベリー」は、ジンに欠かせないボタニカル。国産を使ったクラフトジンは多くはないため、「京丹後産」を訴求することで商品の価値を高められる。
また標高の高さも、ジン造りでは好条件になり得る。気圧が低く沸点が下がることで、ボタニカルの風味を損ないにくい「減圧蒸留」のような効果が期待できるという。
今年4月にオープン
スイス村の建物「マイリンゲン」を整備し、蒸留設備や飲食スペースなどを設け、今年4月に舞輪源蒸留所をオープンした。海の京都エリア(京都府北部)では初のクラフトジン蒸留所となった。
2人の若者が挑戦
舞輪源蒸留所の事業を担当するのは、都市部から京丹後に移住した2人の若者。ディレクターのパク・ヨンテさんと蒸留家のシンザンさんだ。ともに、スイス村での新たな挑戦となるプロジェクトに興味を持ったという。
ジンは、ボタニカルの組み合わせに制約はない。自由度の高い酒であり、造り手は個性を表現しやすい。ただ、2人が目指すのは「『ジンらしいジン』でありながらも、ここだからこそできることで舞輪源蒸留所らしさを出す」ことだ。
ボタニカルのジュニパーベリーやクロモジ、クマザサは、蒸留所の周辺に自生するものを使う。収穫後、すぐに蒸留できる環境が強みであり、「フレッシュクラフトジン」と銘打つゆえんだ。
地元食材を活用
地元の食材も、ボタニカルとなる。その一つが、スイス村に設けた養蜂場で採取する「京丹後山頂のはちみつ」。標高が高い場所で養蜂を行うことから「丹後半島最高峰の養蜂場」と呼ばれ、加熱や添加をせずに生蜂蜜の状態で商品化したもので、香り高く上品な味わいという。太鼓山の自然の恵みでもある。
このほか、京丹後の農家が栽培する農薬不使用レモンもボタニカルに用いる。
使用する水は、軟らかな口当たりの山の「超軟水」に、山のミネラルが溶け込んだ山のふもとの「超硬水」をブレンドする。両極端な水がある地域の特性を生かし、個性に結び付ける。
2種類を展開
舞輪源蒸留所で造るクラフトジンは、原料が異なる2種類がある。
一つは、京丹後産のクロモジや農薬不使用レモンを原料にした「オリジナル」(200ml、税込み2310円/700ml、税込み5610円)と、蒸留所限定ボトルの「ポケット」(170ml、税込み2530円)だ。
もう一つが、京丹後産ジュニパーベリーや「京丹後山頂のはちみつ」を用いた「エクストラ」(700ml、税込み2万9700円)。当面はこの2種類で展開していく方針だ。
舞輪源蒸留所とECサイトで販売するほか、京丹後市内外に取扱店もある。
品評会出品や体験も
クラフトジンは、舞輪源蒸留所で飲むこともできる。主にジンソーダ・ジントニックで提供しているが、おすすめはストレートまたはロックという。
客観的な評価を得るため、今後は海外の品評会への出品も計画する。
また、クラフトジンを身近に感じてもらえるように、蒸留設備を使った「フレグランスウォーター作り」などの体験も行っていくという。パクさんは「周辺の自然と合わせて楽しんでもらいたい」と語る。
【京丹後舞輪源蒸留所】
営業時間:午前11時~午後4時
定休日:木曜
電話番号:0772-66-3705
E-mail:mrg@mairingen.jp
※来店には事前の予約が必要