地元ジビエのランチが人気 与謝野町の「かや山の家」

山と生きる

地元ジビエのランチが人気 与謝野町の「かや山の家」

 大江山の中腹にあり、のどかな田園風景が広がる与謝野町の温江(あつえ)区。この土地で40年以上もの間、地元住民らが守り継いだ宿泊施設「かや山の家」が2021年にリニューアルし、地元のジビエを使ったランチが味わえる場所として人気を集めている。棚田でのキャンプなど地元の資源を活用した体験メニューも提供しており、施設の運営に携わる青木博さんは「これからもずっと、多くの人にとって〝楽しい場所〟として続いていけば」と施設の魅力づくりに奮闘している。

温江出身の男性が奮闘

温江出身の男性が奮闘
経営者として施設の運営に携わる青木さん

 かや山の家は1978年に府所管の施設として開設され、2009年に町が譲り受けた。当初から地元の温江区が運営委員会を立ち上げて施設の管理運営を手掛け、学校の林間学校やスポーツ合宿、地域の人の食事会などで幅広く利用されてきた。
 しかし、利用者の減少や建物の老朽化で運営が厳しくなり、区が運営からの撤退を表明。そんな中でも「なんとか施設を継続させたい」と願う5人ほどが2017年に㈱かや山の家運営委員会を立ち上げ、スタッフを一新して再スタートを切った。
 この時から運営に携わり、2018年には同社の代表に就いた青木さんも温江区で生まれ育った住民の一人。高校を卒業後、大阪に出て12年間ほど複数の飲食店で料理人やサービスマンとしてスキルを磨いた。この間、バックパッカーとして4度の海外旅行を経験し、ベトナムやインド、ヨーロッパ10カ国を旅して回ったという。
 30歳の時、子どもが生まれたタイミングで青木さんは古里にUターン。地元の飲食店で働いていたが、同社の設立と同時に入社し、山の家の運営に携わるようになった。
 施設の再スタートを機に青木さんが最初に手掛けたのは広報誌の発行で、地元に向けて施設が新しくなったことをPR。その後はコロナ禍前だったため、海外向けの宿泊予約サイトを活用してインバウンド(外国人旅行者)を呼び込んだり、SNSを活用して若い世代にもアピールしたりと、集客への取り組みに注力した。

2021年にリニューアル

2021年にリニューアル
リニューアルした食堂

 2021年2月には町が施設の大規模改修を行ってリニューアル。厨房や浴室、トイレを中心に食堂もきれいによみがえり、物置だった建物を活用して町内で捕獲された鹿やイノシシを活用するジビエ解体加工施設も新たに整備された。
 与謝野町では年間1千頭以上の鹿やイノシシが有害駆除されている。青木さんは以前から地元のジビエを有効活用したいと考えていたが、飲食店で提供するには専用の処理施設が必要になるため、その希望はかなわなかった。しかし、解体加工施設が新設されたことで、山の家でもジビエを提供することができるようになった。

地元食材使ったランチメニュー

地元食材使ったランチメニュー
かや山の家で提供しているランチ

 「この地域の山の食材で勝負したい」。そんな思いで青木さんが始めたのは、地元食材を使ったメニューを提供するランチ営業。肉は地元のジビエだけ、鮮魚は宮津市や京丹後市など近隣のものに限定し、米や野菜も町内産にこだわる。
 ランチは選べるメイン料理とご飯、具だくさんのみそ汁、副菜2種などが付いた「ヤマノウエ定食」、選べるパスタとサラダ、副菜2種などが付いた「パスタ定食」、選べるカレーとサラダ、副菜2種などが付いた「カリー定食」があり、値段はいずれも1100円とリーズナブルに設定されている。
 ヤマノウエ定食のメイン料理には、「鹿の赤ワイン煮込み」や「鹿とセロリの焼きぎょうざ」、パスタ定食には「鹿とキノコの豆乳ソース」、カリー定食には「鹿ミンチのキーマカレー」と、メイン7種類のうち4種類がジビエを使ったメニューとなり、これを目当てに訪れる人も少なくないという。ランチの営業は毎週水・木・金・土曜の午前11時~午後2時(ラストオーダー)。

地酒やクラフトビールも

地酒やクラフトビールも
厨房横のカウンターには自家製のシロップなどが並ぶ

 もちろん、宿泊者用のディナーでもジビエを使ったミニコース料理などが味わえ、町内の酒蔵で醸造された日本酒や、与謝野のホップを使ったクラフトビール、京丹後産の果物を使ったジュース、自家製のシロップを入れたソーダ割り、地元で焙煎したコーヒーなどドリンクメニューにもこだわっている。

資源活用した体験プランも販売

資源活用した体験プランも販売
屋内にテントを張り、キャンプ気分を味わうこともできる

 また、様々な体験を求める宿泊客に向け、ビールの原料となるホップの収穫体験や、田植えと稲刈り、陶芸体験など、地元の資源を活用した体験プランも販売。施設の前にある田んぼでキャンプができる「棚田でキャンプ」(3~4月と9~11月)も新たに売り出す計画だ。海まで車で20分という立地も活かし、青木さんは「地元の事業者と連携し、海のアクティビティーを入れた体験メニューなども提案していきたい」と話している。
 施設の宿泊定員は60人で、料金は素泊まりが4400円、1泊朝食付きは5500円、1泊2食付きは8250円。料金改定を行う4月以降は素泊まりが5500円(小学生4400円)、1泊朝食付きが6600円(同5500円)、1泊2食付きが1万1000円(同7700円)になる。小さな子ども連れでも気軽にキャンプ気分を味わってもらおうと、施設内にテントを張って宿泊してもらうこともできる。素泊まり客にはバーベキュー道具の無料貸し出しも行っており、夏場だけでなく冬の利用もあるなど好評を得ている。
 海の京都DMOのモニターツアーの宿泊者を受け入れたり、新型コロナウイルスの感染拡大前はビアガーデンや新そばを食べる会など100人規模のイベントも開催したりと施設の活用の幅が広がり、「『(かや山の家が)変わった』と言ってくれる人が増えた」と喜ぶ青木さん。今後30年は運営に携わっていきたいと願い、「過疎化が進む温江区を守っていければ」と、事業を通して元気な古里づくりを目指している。

かや山の家のホームページ

Share

カテゴリ一覧に戻る